サイバテック・バトルフィールド｜リアクション

サイバテック・バトルフィールド

序：ミッション・スタート

　――騒がしい。

　それがK-403.4（霧谷朧）が最初に察知した異変だった。

　K-403.4はサイバーβに所属する『後方支援・防衛タイプ』のAIだ。一部を防御システムと同化する事で異変を察知しやすいようになっているが、今回はそれが徒となったのかもしれないし、ただ単に機嫌が悪かったのかもしれない。
　普段から必要最低限しか語らず、その言葉も体言止めで淡々としている彼は、察知した異変に対し、すぱっ、と言い放ったのだ。
「騒がしい。……なぜ入ってくる」
　瞬時に防壁を作り、同時並行で狐のようなプログラム……バスターコードを起動し、やってきた存在を迎え撃った。
（カラス型。攻撃タイプ。……排除開始）
　K-403.4は防衛プログラムだ。ウイルスは排除しなくてはならない。彼が瞬時に反応した事が波紋のように他のプログラムにも伝わり、やがてサイバーα、サイバーβ共通の敵として迎え撃ちはじめた。だが、彼にとって大事な事は、そんな情報よりも目の前の敵を排除する事である。
（ウイルス排除、それが役目。『それ』が『俺』の役目）
　瞬きする暇さえ与えず行われる攻撃。一瞬のタイムラグが消滅に繋がる。排除、排除、排除、排除。ここは守るべき場所だ。故に……。
（排除する）
　そんな彼がカラス型を排除し続けていくうちに、音もなく赤い線が空間に流れた。白いボディをした若者が、黒いボディの少女と共にウイルスを消去していく。
「――」
　ふと呟くその刹那。彼の中の何かが僅かにタイムラグを起こした。それが何なのか、今の彼には分らなかった。

　＊・＊・＊・＊

　白のボディに赤いラインが映える若者が、銃を手に向かう。そのレーザーが何羽ものカラス型ウイルスの羽を切り落とし彼は白い閃光の如く巡る。
　その合間を襲うは、ネズミ型ウイルス。相手にしているのは黒いハイレグレオタードを纏った細い線の妖精。その黒いボディに散りばめられた青いコードラインが輝けば、翼のように銃が広がり、ネズミ型ウイルスを撃つ。
　若者は、手を止める事無く狙撃、狙撃、狙撃。傍らの少女も彼と目を合わせる事無く狙撃、狙撃、狙撃。背中合わせになったその一瞬、２人は通信する。
「お前、回復プログラムじゃなかったっけ？」
「応急処置は終わっています。本格的な再生は敵を完全に駆逐してからでも遅くないと判断しました」
　白いボディの攻撃プログラムのAIは、No-tKOF（桐野正也）で名称は『Collect』である（以下、この様に表記）。彼は人間的に言えば好奇心旺盛で、敵の情報を集めている。Collectは僅かな通信の間でも、敵を考察・観察し情報を集めている。
　一方、黒いボディの回復プログラムのAIはAoi04（仙藤蒼）である。破壊されたり、敵から奪還したプログラムを再生するのが回復プログラム本来の仕事である。が、戦場でそれを緊急に行う必要性から卓越した戦闘能力を添付されているのである。
　Aoi04は手を翻し、ネズミ型の前に青白いバリアを形成して足止めする。だが、それを乗り越えてネズミ型はやってくるのだ。ちまちまと足止めしている時間はない。
　故に、彼女は攻撃に転じた。応急処置を一呼吸の合間に終わらせた彼女はネズミ型を次々にハンドガンやら長距離狙撃ライフルやら、アサルトライフルやら距離に応じて使い分けここまで来たのである。
「そちらは、カラス型を。こちらは、数で攻めるネズミ型を相手にします」
「任せた」
　Aoi04の言葉に、Collectは獲物を軽く上げることで応じてカラス型を相手取る。Aoi04は距離を彼からとると足止め用バリアをいくつも展開。ネズミ型の気を引いて武器を変更する。
「雑魚はやっぱり」
　瞬時に出現する獲物は、武骨で、いくつもの筒がまとめられた銃――ガトリングガン。
「コレで一掃するに限るよね！」
　Aoi04の言葉に合わせ、幾筋ものレーザーが発射される。消滅していくネズミ型の姿を見ながらも、後から湧いてくる同型に、慌てる事無くバリアで足止めを展開する。

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