ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　天国に届くかと思われるほど高く強く勢いよく燃えていた炎も、やがてじわじわと勢いを落とし、恐竜が眠るがごとく、とうとう燃え尽きて終わったのだった。
「ねこ祭も終わりですね……」
　それが華やかなほど、祝祭が終わった後というのは寂しいものだ。
　焚き火にも同様のことが言えるだろう。煙が立ちのぼっていく様は寂しい。
　だから、焚き火の終わりがすなわち祭の終わりという今日の趣向は、いっそう寂しいものに明智、いや、アケーチ･タッマーキには思えてならなかった。
　山車や焚き火の撤収は業者が行うというので、会場案内、誘導を主としたアケーチのボランティア活動はこれにてお役御免である。ボランティアスタッフの黄色い腕章を外して、安全ピンをしまって返却すればそれでおしまいだ。
「それにしても……」
　充実感を抱きしめるように、アケーチは含み笑いする。
「スタッフとして、楽しむ方々を間近で味わうのも良いものでしたね、ふふ……！」
　腕章を受け取る係のお姉さんは、受け取る姿勢で両手を前に出したまま、目をぱちくりするほかなかった。
　腕章を返し、さて、とアケーチは駅ビルの時計表示を見上げる。
「帰還には早い時間、となれば、旧交を温めるもまた良し、ですねえ……」
　とすれば常連となった某BARに行くのもいいだろう。ダンディなマスターの横顔を肴に、ロックアイスを溶かす時間は格別に違いない。なおアケーチ基準では、二度も来店すれば常連ということになっている。
　さもなくば、とキャットロードに目を向けて、
「今朝行きそびれた、あの泰葉さんという女性にいる店に会いに行ってみるのも、また一興……」
　などともつぶやいてみる。キャバクラという形態の店らしい。業態はよくわからないが酒場の一種だろう、キャピキャピさせられたりクラクラさせられたりしそうな倒錯的な響きだ。新しい出逢い、初めての体験が待っていることだろう。考えるだに心が躍る。
「どっちがいいですか、ねぇ……」
　細い顎に指を当て、アケーチはつぶやく。
　そして突然グイと視線を下げて、彼はボランティアスタッフ（腕章を受け取る係）のお姉さんに訊くのである。
「私はどちらに行ったらいいと思いますか……ふ、ふふ……！」
「それはあなたの欲望のままに……んふ、んふふふっ！」
　にちゃり、お姉さんの口腔から妙に湿り気のある水音が聞こえた。
　――できる……！　そういえばこのお姉さん……またお目にかかりましたね……。　
　長い髪を束ね野球帽を被っているものの、彼女は確かに、かつてアケーチが似顔絵を描かせてもらった少女であった。
「ふ、ふふ……！」
「んふふふ……っ」
　それが彼らだけに通じる符牒であるかのように、アケーチと胡乱路秘子は、意味深な含み笑いの交換を続ける。
　ところでアケーチはまだ、猫耳を頭につけたままであった。

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