嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！｜リアクション

嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！

【ミッドナイトダンサーズ・アゲイン】

　『月の光を浴びたおもちゃには、一夜の不思議な力が宿る』……そんな噂が、近頃子どもらの間に駆け巡っているようであります。
　どうやら、本当だったようでありますな！
　おっと、これは失礼いたしました。
　自分は、『カオスダイバー』と申します。司令官……陸堂源次どのの指揮のもと、我らが寝子島の防衛任務に就いております、正義のカプセルギアであります。以後お見知りおきを！
　さて、月の夜に自らの意思で動けるようになるとは、自分も少し驚いているでありますが……これは好都合でありますな。
　司令官には申し訳ありませんが、今宵はしばしの休暇を頂くとしましょう。
「ワン！　ワン！」
　おっと。窓から庭へ降下したところで……貴官は、司令官の飼い犬どのでありましたな。お名前は確か、ロボどのと申されましたか。
「ワン」
　ほう？　貴官も自分に同行されたいと？
「クンクン」
　我ら、ともに司令官の部下であります。もちろん、断る理由はないでありますよ！
　この首輪を外して……あとで戻しますゆえ、お許しを司令官。
　ではロボどの！　ともにいざ、警邏任務とまいりましょう！
「ワン！」

　ロボどのは健脚でありますな。こうして背に乗っていると、景色が驚くべき速さで流れていくであります。
「ワフン」
　うむ、そのとおり。さすが司令官の部下であります！
　しかし、夜の寝子島をこうして眺めるのは新鮮でありますな。夜の青に染まり、静まる街並み……昼間とは違った顔が見えてきて、面白いものであります。
「ワン」
　む、どこへ向かえば良いのか、と？　これは失敬、任務達成には円滑な指示伝達が重要でありますからな。
　では手始めに旧市街を抜け、公園へ。
「ワウン？」
　そう、司令官と自分が、仲間たちと切磋琢磨する訓練場。あるいは腕を競い合う戦場でありますよ。夜のうち、悪漢に占拠されていては司令官が困ってしまうであります。
　公園の無事を確認したら、次は海を回って、高台のほうへと足を伸ばしてみましょう。あそこなら、我らが寝子島を一望できるであります。
「ワフッ」
　おお、さすがはロボどの！　頼もしいでありますな！　

　ふう。今宵も寝子島は、実に平和でありましたな。結構なことであります。なあロボどの！
「ワンっ」
　そうでしょうとも！
　しかし、思えば我々は幸せ者でありますなあ。
「クゥン？」
　有能な司令官に愛され、こんなにも素晴らしい街に住んでいる。このような幸運がほかにありましょうか？
　ロボどの……願わくば。我々の付き合いも、この先長く続いてゆけば良いでありますなあ。
「ワン♪」
　おっと、これはいかんであります。そろそろ夜が明けてしまう。
　帰還するまでが任務でありますよ。我々が夜のうちに姿を消したとあっては、司令官や家族に迷惑をかけてしまうであります。
　我らが司令部へと帰りましょう、ロボどの！
「ワンッ！」

　……といった一夜のできごとは、ツユ知らず。翌朝に目覚めた源次は、こてんと首をかしげました。
「あれ……ダイバー？　なんか、立ち位置が変わってるような……窓のここのところに置いといたと思ったんだけど」
　大切な愛機のことですから、ちょっとした変化にも気づくものです。
　よくよく見ると、なんだかポーズまで変わっているような気がしてきます。
「あの噂……ホントだったのかな？　なんてね」
　苦笑いしつつ、あくびを漏らして部屋を出ていく司令官を、彼は敬礼のポーズのまま見送ります。
　庭から、彼を呼ぶ声が聞こえました。
「ワン！　ワンっ！」
　意味はたぶん、きっとこうです。
　昨日は楽しかったよ！　また遊ぼうね！