嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！｜リアクション

嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！

【らっかみ！事変】

　さて！
　初っ端の一発目ではありますが、らっかみ！にいきなり大変革が起きてしまいました。掛け値なし、本日最大級の異変と言ってもある意味過言ではないことでしょう！
　なにかと言いますと……かりかりかりかり。がりがりがり。
「これからの私は、勉強で一等賞を目指すことにするよ！　手始めに、次のテストは全教科１００点取っておきたいね！」
　いつも明るい元気ガールな野々ののこちゃん、なんとガリ勉に方向転換！
　寝子高図書室にかりかりかりと軽快な音を響かせ、一心不乱にペンを走らせるののこ……額には『必勝』のハチマキをぎゅっとしめておりますし、もちろんぐるぐるの分厚い瓶底メガネだってかけてます。いつもは緩みがちな眉も、今日はきりりっと逆八の字を描いておりました。
　セカンドシーズンにして、メインキャラクターの大胆過ぎるイメージチェンジを敢行したらっかみ！　どうする！？　どうなる！！
「んんんんん！　これは難問だね。英二くん、おしえて～」
「えっと、この問題はね……」
　などと、かたわらでなんだかもう試合に臨む選手を支えるセコンドのような心境になってきたのは、佐藤英二くんです。
　つまり事の発端は、彼のついたウソでありました。毎度のテストをギリギリスレスレの低空飛行でどうにか乗り切り、次こそは留年か……とヒヤヒヤしていた英二は、願ったのです。
　『野々さんがコツコツと勉強を頑張るようになったら良いなぁ』……と。
（まさか、本当になるなんて）
　ぬおおおおっとスゴイ勢いで問題を解きまくるののこの頼もしい姿に、英二はお隣でついつい、顔を和ませます。
　頬が触れそうに近い距離で、椅子を並べて勉強会。時折ののこが答えに詰まった時には、英二の出番です。
「おお～、なるほど！　英二くんって教えるの上手いねー！」
「そ、そうかな？」
　ののこが少しずつでも勉強できるように……というのが彼の願いではありつつ、こんなささやかなやりとりにも、小さな幸せを感じてしまうのでした。
「よーし！　この調子で、ばっひゅーんと１００点目指すぞー！　おーっ！」
「うん。僕も応援するよ」
　このままののこが成績を上げていったなら、来年の進級も安泰。英二だって心穏やかに年度末を迎えられることでしょう。

　……と思っていたのが、三十分ほど前のこと。
「ちゅるちゅるちゅる……はふはふ。いやー、やっぱり学食のラーメンは美味しいねえ♪」
「そうだね」
　カフェテリアには、わりかし緩んだののこと、そんないつもの彼女の笑顔を眺めてこれまたほっこりな、英二の姿がありました。
　まあ、英二のついたウソはあくまで『コツコツと』でしたもので。ガリ勉モードはののこ的に消耗が激しすぎたのか、あまり長続きはしませんでしたけれど。
「でも私って、けっこうやればできる子だったのかも。なんだか勉強にも自信が湧いてきたよ」
「えっ、本当？」
「うんっ！　英二くんのおかげだね～♪」
　たとえその発言が英二のウソによるもので、明日からはいつものカンジに戻ってしまうのだとしても……きっと今日勉強したことの知識、やる気や熱い気持ちの一部、ほんのひとカケラくらいは、残ってくれることでしょう。
　残っていてほしい……少しでもいいから！　ほんのちょっとだけでも！
「ぷはぁ、食べた食べた～！　食後になにかデザートも食べちゃおっかな？」
「あ、じゃあ今日は僕がおごるよ。なにが食べたい？」
「えっ、いいの！？　ほんとに！？　やったー！　なに食べよっかなぁ、ケーキもいいし、プリンも美味しそうだし。ゼリーもいいなぁ」
　メニューを前にうんうんと悩み始めたののこの横顔を見つめて、英二はあたたかな気持ちを胸に、思うのでした。
（野々さんは、なんでも楽しんでしまう人だもんね。きっと勉強だって、頑張れるよ……！）

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