やきゅうしようぜ！！｜リアクション

やきゅうしようぜ！！

　高杉かようは今年度の寝子高の新入生だ。
　野球大好き少年の高杉の座右の銘は「そんなことより野球しようぜ！」である。
　なんという野球好きなのだろうか！
「普段は打線を黙らせるのがピッチャーの仕事だが、ホームランを打たせるミッションってのもおもしれぇな。なにげに難易度が高そうだ」
　彼ももれいび。
　ここに来るまでテオから事情は聞かされている。
　何より、野球が絡むこの騒動にワクワク感を抑えきれない。
　そこへ、高杉の見知った顔が近付いてきた。
「高杉も、野々先輩に誘われたのか？」
　ルームメイトかつ同じクラスの響蒼留人だ。
　響の質問に、高杉は笑顔で首を振る。
「いいや、俺は敵側のピッチャーだ。とはいっても、控えだけどな」
「てことは、俺と野球勝負ができるな。俺は野々先輩のチームだ。絶対マウンドに上がってこいよ！」
「大丈夫だって。リリーフで投げれりゃ御の字だが、そう難しいことでもなさそうだ。うちのチームの先発は強者のピッチャーらしいが寝子島のドアホども相手に完投なんかできっこねぇ。そのうち俺がマウンドに上がれる筈だ」
　確信めいた口調で爽やかな笑顔を浮かべる高杉。
「ドアホって……。しかも先輩たちの目の前で……」
　響が苦笑いを浮かべていると、褒め言葉だ、と高杉は返す。
「ほら、あの筋肉質な女性がうちのチームの先発投手、キャサリンさんだ」
「あの、異様な雰囲気の人が、先発ピッチャーか……」
　２人の目線の先には、高身長の女性が投球練習をしていた。
　女性の割には肩幅が広く、関節の節々もガッシリしている印象。
　だが、おっぱいは大きいし腰はくびれてるしヒップもぷるんぷるんだ。
　響は直感した。
　自分の苦手な部類だと本能が警鐘を鳴らす。
　当のキャサリン、２人の少年に見詰められていることに気が付いて振り返る。
　そして思わせぶりに舌なめずり。
　それはまさしく女豹（♂）であった。
　響は蛇に睨まれたネズミめいて震えながら警戒態勢！
　一方、高杉は笑いながら御辞儀をして返す。
「すげぇよな、キャサリンさん。フィリピンのプロ野球球団で投げ込んでいたけど、電撃引退した直後に性適合手術を受けて身体も戸籍も女性になって日本人男性と結婚しちまったんだからな」
「なんで高杉はそんなに冷静なんだよ！？　そして詳しいな！？」
「まぁ、野球やってる奴なら割と有名な逸話だしな。その本人が草野球で投球するなんて、俺、ちょっと感動！」
「高杉は野球の事になると他は気にならないのかよ……？」
　ちょっと呆れる響。
　彼は姉の影響で、腐女子ネタに嫌悪感を覚えるようになってしまった。
　ゆえにキャサリンのようなオネエさんも苦手な部類のようだ。
「それより響、今日はチャンスだ。なんせ俺と一緒に甲子園を目指せる仲間に巡り合えるかもしれないんだからな」
「……いや、高杉が何を言っているのか、ちょっとわからないんだが」
　真顔で問い返す響に高杉が「わかってないな」と肩をすくめる。
「この試合で、腕のいい選手に声を掛けて野球部で一緒に汗を流す！　俺は寝子高野球部への勧誘をするぞ！」
「そ、そうか。頑張れよ、高杉……」
　大胆な高杉の野望に、響は思わず頭を抱えてしまった。