遅刻の日｜リアクション

遅刻の日

○史越奈津樹の場合

「ん……母さん？」
　母さんの声に眠りを覚まされた１年生の史越奈津樹は、目をこすり眼鏡をかけた。
「……やっちゃった！」
　時計を見た奈津樹は、次の瞬間そう叫んでいた。
（寝なきゃと思いつつついつい日が昇るまでやってしまったんだ……）
　元々引きこもりだった奈津樹は、中学３年ぎりぎりで復帰してからは規則正しい生活を心がけている。
　しかし夕べはネトゲのバージョンアップがあって、つい油断してしまった。
　慌てて制服を着て、カバンを持ち。
（いそげ！　とりあえずパンをくわえて走り出せ！！）
　母さんが差し出したパンを物もいわずくわえ、奈津樹は走り、自転車に飛び乗った。
　
「急げ自転車！」
　シーサイドタウンを立ちこぎして突き進む奈津樹だが、すぐにスタミナ切れを起こす。
「早いけどすっごい疲れるよね……ひぃひぃ」
　それでもようやく学校が見えてきた。
「ギリギリ間に合いますように！　……あっ」
　校門には数人の風紀委員らしき人たちが立っていた。

「頑張って学校に着いたけど、あーこれ遅刻かなぁ」
（うー怒られるの苦手なんだけど許してくれないかな）
　怒られるのが得意な人はいないと思うが。
　奈津樹は身をすくめ、目を伏せながら校門へ向かう。
「……ちょっとあなた」
（来た！）
　ちらっと目を上げると、ロングヘアの黒縁眼鏡の女生徒がこっちを見つめている。
「すみません……寝坊しました」
　ぼそぼそとつぶやくと。
「ネクタイの結び方がひどいし、ボタンが段違いよ……直して。髪もボサボサね」
　呆れたように言われた。
「慌ててたから……」
（遅刻の取り締まりか服装チェックか、どっちかにしてくれればいいのに）
　ネクタイとボタンを直しながら奈津樹は思う。
「間に合うならいいけど、どうせ遅刻するなら髪くらいとかしてきなさい」
「……はい」
（……理不尽だなあ、必死で急いできたのに）
　内心そう思いつつ、奈津樹は返事をした。
「失礼」　
　すっと女生徒の手が奈津樹の髪に伸びた。
（えっ？）
　突然のことに固まる奈津樹の髪を、女生徒は櫛でとかしてくれた。
「これでいいわ。次は気をつけなさい」
「……はい」　
　奈津樹は自転車を引きずって自転車置き場に急いだ。
（くそ、まだ心臓がドキドキする……さっきの立ちこぎのせいか？）　　
　そんなことを思いながら。

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