遅刻の日｜リアクション

遅刻の日

○春姫いちごの場合

「わわ……！　遅刻、ちこくです……！」
　チョコレート色のツインテールを揺らし、１年生の春姫いちごは必死に走っていた。
（遅刻はしないように、って気をつけてたはずなのに……なんでこんな事になってしまったんでしょう……？）
　いちごは、遅刻の原因を思い返した。
「えっとえっと」
（まずは昨日の夜目覚ましのセットに失敗して寝坊しましたぁ……）
　星ヶ丘寮に住むいちごだが、使用人を使う立場ではない。
　本土の名家に代々仕えてきた家の娘であるいちごは、先輩使用人にいろいろ教えてもらうために寝子島に転入したのである。
（それでそれで、急いで朝ごはんをミルクティーだけにしようと思っていたら、ぜんぶこぼしちゃいました……それで制服も濡れちゃって……うう……考えれば考えるほど原因がいっぱいです……）
　いちごはよくドジをする。慌ててドジが続くことも、ままある。
「でもでも！　まだ走れば間に合うかもしれません！　……って、ひゃあっ！？」
　気を取り直して力んだ途端、いちごはつまずいて転んでしまった。
　小柄なわりに胸が大きく、足元が見にくいので転びやすいらしい。
　慌てて起き上がったが、足を見てさらに涙目になった。
「うう、転んじゃいました……それにそれに、タイツも破れちゃいましたぁ……」
　白いタイツが泥で汚れ、幸いケガはなかったが片膝はぱっくり丸く穴が開いてしまっている。
「家に帰る時間はもうないですし……ど、どうしましょう……」
（コンビニで買うとか……でも、遅刻したくありませんし）
　悩んでいるうちにますます時間が経ってしまった。

「風紀委員の方がたくさんいらっしゃいます……」
　ようやく学校が見えたときには、すでに風紀委員が校門を固めていた。
（うう、怒られちゃいますよねぇ……？　でもでも、遅刻したわたしが悪いんです……うう……）　
　おそるおそる校門へ向かういちご。
「ご、ごめんなさい……！」
　開口一番謝って、頭を下げる。
(うう……全部わたしがいけないんです……！　怒られても仕方ないんです……！)
　覚悟を決めたいちごに、風紀委員は言った。
「君、転んだの？　ケガはないかい？」
　タイツの破れを見つけた風紀委員が心配してくれた。
「は、はい……大丈夫です」
「気をつけてね。ストッキングは購買で買うといいよ」
　先輩らしき風紀委員は小声でそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
（や、優しい方でよかったです……！）
「ああ、でも先生に怒られちゃいます、急がなきゃ……！」
　しかし次の瞬間。
　べたん！
　無情にも再び転ぶいちごだった。

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