遅刻の日｜リアクション

遅刻の日

○羽生碧南の場合

　普段、バスケ部員である羽生碧南の朝は早い。
　朝練があるので必然的に早寝早起きとなるのだが、嬉しいことに翌日は朝練がなかった。
「買ったばかりの新作乙女ゲームができる！」
　と喜んで、深夜２時まで満喫した。
「７時に起きれば５時間は眠れるから問題ないよね……」
　幸せな気分で眠りについた碧南だが。

「……うそ!?　これじゃあ遅刻じゃない!!」
　目が覚めて、スマホで時間を確認したら……７時どころか８時過ぎ！
　一発で目が覚め、大慌てで寝間着代わりのＴシャツとジャージを脱ぎ捨てる。
　同室の子の姿はすでにない。
　制服を着て、鞄に今日の授業で使う教科書とノートを入れ、さらに練習用のＴシャツやタオルや下着の替えも放り込む。
（朝食食べてる暇はない。午前中の授業は空腹を我慢しなけりゃならないけど、遅刻するよりはマシと思うしかないよね）
　洗面所へ行って大急ぎで洗顔と歯磨きを済ませ、寮の外へ飛び出す。
　この時点で８時１８分。

　身長１８０センチの高身長女子が、決勝戦さながらの真剣さで、血相を変えて走る様──これが試合の際のコートでの姿であれば、女戦士のように颯爽としてかっこいいのだけれども。遅刻かどうかの瀬戸際ではどうにもしまらない。
　本人はそんなことを考えてる余裕もなく、必至なまでに真剣なのだが。
　桜花寮から学校は近い。
　すぐに正門が見えてきた。
「ラストスパートを……かければ、まだ、間に合うはず……」
　試合で速攻をかけるときのような気分で、碧南は走る。
　はたして、結果は？
　校門に数人の人が集まっているのを目の隅に捕らえながら、碧南は走り抜けた。
　何か声が聞こえたような気もするが、それどころではない。
「セーフ！」
　教室に滑り込んだ碧南は、安堵しながら席についた。
　チャイムが鳴り響きしばらくすると、後から生徒が入ってきてぼやいた。
「今日の風紀委員の取り締まり、厳しかった……」
「えっ？」
　風紀委員なんて見なかった、と言おうとして碧南は気づいた。
（あれ、そういえば）
　校門にいた生徒たちが腕に腕章をつけていた、ということに。
（つい試合の時みたいな気分で、抜いちゃった……）
　後で怒られないだろうか？　と心配になる碧南だった。

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