不思議な酔いの1日｜リアクション

不思議な酔いの1日

「ふわふわして、うにゃうにゃする……」

　ふらついた様子でそんな事を呟くのは恵御納夏朝。
　ふわふわはまだ解るが、うにゃうにゃするとは一体どのような状態なのか。仮に誰かが夏朝の言葉を聞いていたとしたら疑問に思った事だろう。

「うにゃー。うん、何だか楽しくなってきたかも？」

　どうにも現実感がない。そう、これはまるで夢の中にいるような感覚だと夏朝は思う。
　神魂の影響かなと一瞬考えるも、直ぐにどうでも良くなってしまう。すっかり楽しい気分になってしまっていた。

「どうしようかにゃー」

　何だかすっかり猫っぽくなってしまっている夏朝。
　普段から少しぼーっとしているところがあるが、今はそれに輪をかけてぼーっとしているのだ。

「あ。猫さんグッズを見にいこー」

　気付けば夏朝がいるところは丁度行きつけの店の近くであった。先程までこんな道にいたかどうか定かではなかったが、今の夏朝にはどうでも良い事だ。
　大事なのは猫さんグッズを見る事。今、猫さんグッズを見ればきっと凄く幸せな気分になれる筈だと夏朝は考えていた。
　ふわふわとした夢心地な状態で歩いて行く。その先に猫さんグッズがある故に。

「猫さん達、可愛い……うにゃー……」

　いつものように夏朝は幸せそうに猫さんグッズを見ていく。
　視線を移せばそこにも猫さんグッズ。あぁ、この猫さんグッズは見覚えがない気がすると夏朝はとあるグッズを凝視する。凝視している間も、表情は満面の笑みである。
　しかし、買うのは一つだけだ。不思議な空間だから沢山買っても問題なさそうだが、夏朝にはとある確信があった。
　今いるのは夢の中みたいなところ。だけど、所持金や猫さんグッズは夢じゃない気がするのだ。だから、調子に乗れば後が大変だと夏朝は思った。

　あぁ、猫さんグッズをもっと買ってしまいたい。そんな風に夏朝は思うけど、ここで流されてしまえば今後買えなくなるかもしれない。
　猫のような呻き声を一つ上げて、選んだ商品をカウンターへと持っていく。

　誘惑に負けずに選んだ商品を購入した夏朝は店を出て、ふらふらと外を歩いている。
　目的は猫探し。こうして歩けば猫に会える気がするのだ。これもまた妙な確信があった。

「あ、塀の上に猫さん……。屋根の上にも……」

　すると、堀や屋根の上に猫がいる事に夏朝は気付く。
　普通ならばそれらはただ見る事しか出来ない。だけど、今日の夏朝は違った。
　今の自分はまるで別人みたいだと夏朝は思う。ふわふわうにゃうにゃとした気分でもある。

（今の僕なら、登れる気がする……猫さん達みたいに！）

　そう決意するとまるで本当の猫のような態勢をとる。こげ茶色の天然パーマの髪を持つ夏朝がそのような恰好をとると漫画やアニメに出てくる猫の獣人のようでさえあった。
　ただ、幸いなのは周囲に人がいない事だ。もし、人がいたらスカートの中身という花園を見せてしまっていたかもしれないからだ。
　そして、まずは堀の上にジャンプ！

「あ、猫さん、驚いた？　ごめんね……でも可愛いなぁ……」

　人間がそのような跳躍をするとは思わなかったとでも言うかのように驚いている猫。
　だが、何故か逃げる素振りは見せないので、夏朝は可愛いと言いながら撫でる。
　一通り撫でたら、今度は屋根の上へ。

　先程と同じように跳躍するが着地した際に少しバランスを崩してしまう。わわっと慌ててバランスをとって何とか事なきを得る。

「ふー、セーフ……」

　屋根の上にいる猫は堀の上にいた猫と違い、一度跳躍するのを見たからかそこまで驚いていないようだ。

「猫さん達に見える景色って、こんな感じなんだにゃー……」

　猫の直ぐ傍まで来て屋根の上に座りながらそんな事を呟く夏朝。
　それから暫しの間、猫達と戯れて過ごすのであった。

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