５月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

５月の☆ハッピーバースデー

●４日

　星幽塔第一階層にあるBar アストラルは、いつも賑やかで活気がある。騎士もお尋ね者も商人も魔法使いも、ここでは皆ただののんべえだ。マスターは聞き上手、食事も美味く給仕の女達は気っ風が良くて可愛らしいとくれば、たくさんのほしびと達が集まってくる。
　本日もホールは満杯。そしてその中をアリス・ミーティアは水色の美しい髪をなびかせて給仕をして回るのだ。また、入り口から客が入ってくる。アリスはビールを片手に元気に振り向いた。
「いらっしゃいませー！」

　実はアリスは本日５０１歳の誕生日だ。しかし見た目も気持ちも若いアリスは今日も楽しく給仕をする。
　冒険話を耳にすれば、給仕も忘れてお客さんと話し込んだり。そして同僚に見つかりその可愛らしい尖った耳を引っ張られて連れ戻されてしまうのだ。
「痛い痛い！　待って、あの冒険がどうなったかだけでも聞きたい～！」

　そんなアリスの周りには笑い声が絶えない。
「たこの刺身とナッツ炒めお持ちしましたー！」
　馴染みの客達が座るテーブルにアリスが注文の品を届けに行くと、腕のぶっとい男がにっと笑いながら声をかけた。
「アリスは今日誕生日だろ？　何歳になったんだよ？」
　女性としては困る質問だ。けれども百戦錬磨のアリスはさらりと躱した。
「女の子に年齢は聞いちゃダメ。ご想像にお任せします。……あ、でもビール奢ってくれたら教えてあげる！」
　最後に可愛らしくウインクすれば、男は思わず赤くなり、周囲の客は大笑い。そしてまた忙しくアリスは給仕に戻るのだ。

　今日もBar アストラルは忙しい。それでもいつもとちょっと違うのは、出会うお客さんに次々に「おめでとう、アリス！」と言われる事だ。
　アリスは笑顔で「ありがとう！」と返す。優しい客達に囲まれて、アリスは誕生日でも背中の小さな羽をふよふよと動かしホールを元気に飛び回るのだ。
「―――お待たせしました、生中です！」

　そして閉店時間。アリスが外の片付けをして店内に戻ると、同僚達がカウンターの前に勢揃いしていた。
「「「アリス、お誕生日おめでとう！！」」」
　カウンター前のテーブルにはおつまみとビール。同僚の友人がにっと笑った。
「ささやかだけどさ、みんなでお祝い。飲もうよ！」
「わぁ、ありがとう！」
　突然のサプライズにアリスの頬が薔薇色に染まる。カウンターの中からマスターが優しく微笑んだ。
「お誕生日おめでとう。そしていつもありがとう」
「私の方こそありがとう、マスター……あ、それなら」
　と、今まで淑やかだったアリスの瞳が急に悪戯っぽく輝いた。
「今日はマスター秘蔵のあのお酒、飲みたーい！」
　店内が爆笑に包まれる。そして皆でアリスをお祝いして、元気よく乾杯をした。

　優しいマスターに気が置けない同僚達。そしてテーブルにはマスターが出してくれた美味しいお酒。
　こんな楽しい職場にいれば１年が短く感じてしまう。温かい笑顔に包まれながら、５０１歳になったアリスはその長い睫を幸せそうに伏せた。

　今日も変わらず仕事だったけど、とっても素敵な誕生日。
　―――また、明日もお仕事頑張ろう！