●●●髑髏と鉢被り一寸の輪舞曲●●●

「三十一回戦、火山ステージでナデシコさんとスケルトンさんです！」
「よろしくお願いしますね。楽しみにしてたよ、あなたとの試合」
「宜しくです。その毒、攻略のし甲斐がありますです」

　握手を交わす新田 樹は嬉しそうに微笑み、猫屋敷 姫も応じるように笑みを浮かべる。
　楽しみにしてた、というの樹のギア、スケルトンと姫のギア、ナデシコが似たタイプだからだ。
　この総当たり戦では後半になればなるほど『初見』がなくなっていく。
　それゆえに似たタイプだと知ることができ、スケルトンが『毒』を用いることを知ることができた。

　樹の文字通り髑髏姿のギア、スケルトンは左アーム装備で毒霧を出し、ステージを覆って行動を制限。
　右アーム装備で毒液を発射し、直接攻撃より制限時間いっぱいまで粘って体力を減らし続ける戦法だ。
　そしてその毒霧を厄介にしているのは高いスピードと短距離の瞬間移動をするレッグ装備だ。
　その二つを用いてフィールドが形成されれば通常の力は出しづらい。ちなみに、毒への無効化はボディ装備が担当している。

　対するおとぎ話の一寸法師と鉢被り姫を足したような和風のギア、ナデシコも高いスピードを擁している。
　通常のギアより低い身長ではあるものの、それを長所として活用しレッグ装備、イダテンで範囲攻撃をうまく避ける。
　そしてアーム装備、カタナで見た目より大きいダメージを相手に与えて制限時間いっぱいまで粘り、勝つ。
　遠距離になればアーム装備、ユミで攻撃し、接近されればヘッド装備でステルスになり姿を消す。

　似たような性質と戦術を持つ二人がお互いに興味を持つのは自然と言えるだろう。
　設置したギアからもお互いの戦う意思のようなものを感じなくもない。

『ギアバトル、スタート！』

　試合開始を告げる機械音を聞いた瞬間、スケルトンの左アーム装備から毒霧が噴出。
　あっという間にスケルトンの姿が隠れ、それがナデシコにまっすぐ伸びていく。
　結構なスピードを持っているため、所々毒霧が途切れている場所もあるが、問題はないと樹は感じていた。

（必要なのは私に有利なフィールド形成。穴をあけておけば通る、という選択肢ができるしね）

　近付いてくる毒霧にナデシコは後ろ向きに飛び、開始時とほぼ同じ間隔を保つ。
　そしてアーム装備、ユミから待ち針状の弾をスケルトン、正確には毒霧の発生している地点に放つ。
　ユミという名前ではあるものの、その実、短針銃となっており、連続の射出が可能になっている。

　ナデシコのユミへの対策はすでにしていた、とでも言うようにスケルトンへのダメージはない。
　スケルトンは毒霧に紛れ、その歩みを止めた。
　ナデシコは構わず毒霧との距離を保ち、マグマを踏まないように気を付けながらユミを連射する。

「うんうん、やっぱり早いなぁ」

　幾分か満足げな声を漏らす樹をよそにマップ全体を見渡す姫。
　スケルトンの毒霧増加はナデシコとは逆方向に広がりを見せている。
　そして、その先にはいくつかある高所への道の一つが存在した。

「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し、うーん信玄さん全くもって道理です」

　有名な武田信玄の言葉をなぞらえつつ、ナデシコのステルスを起動する姫。
　初動が『風』、毒霧の様子を見るのが『山』とするとこのステルスは『林』に当たるだろう。
　ナデシコの取った選択肢は毒霧を大きく迂回して高所への道に移動することだ

「マグマからの反応もない…静かだね」

　つぶやく樹はなおもスケルトンを操って毒霧を放ち続け、時折あらぬ方向に毒液を放つ。
　運が良ければ当たるだろう、ぐらいの気持ちで放っているがその効果は芳しくない。

　すると、スケルトンが毒液を放った直後にナデシコが背後から出現し、ユミで射撃。
　スケルトンは咄嗟にレッグ装備の瞬間移動で回避に成功するものの、毒霧のない方向に行ってしまう。
　まずい、と思った時には眼前に近しいほどナデシコが迫っており、カタナでの攻撃をもろに受けてしまうスケルトン。

　ディフェンスが低いことに加え、カタナの連続攻撃に体力が大きく削られたスケルトンはバックステップしながら毒液を放つ。
　スケルトンより早く動けることが裏目に出てしまい、毒液に当たりに行く形になったナデシコ。
　ディフェンスの低さはナデシコにも言えることであり、かつ、スケルトンのほうがアタックが上である。
　性質的な問題でナデシコが受けたダメージは大きくないものの、少しずつ体力を奪っていく。

（やっぱり厄介です。ダメージは与えられたものの、マグマと毒の併せはキツいです…が！）

　先ほどスケルトンが瞬間移動した先がマグマになっており、カタナで切り込む際に持続ダメージを受けていたナデシコ。
　同じ戦法ならば崩さねば勝機はないと考えた姫は大胆な攻めの姿勢『火』を実行し続ける。

　バックステップで開いた差はナデシコのスピードで埋められてしまうスケルトン。
　予見できるナデシコのカタナでの攻撃は瞬間移動で回避することもできた。
　しかし。

「んんん、いいですよいいですよ。それでこそ倒し甲斐があるというものですよ」

　うなりながらも生来のスリル好きが高じて笑顔を作る樹。
　スケルトンの瞬間移動でナデシコの攻撃を回避した後に毒液でのカウンターをする戦法を取っていた。
　しかし、それは数回しか成功せず、さらに瞬間移動と同時にナデシコの姿がステルスによって消えることが多くなった。
　その行動が繰り返されるたびに精度が上がっていき、ついにナデシコのカタナでの攻撃はスケルトンへとヒットする。

（瞬間移動のタイミングはカタナでの射程範囲に入った時か攻撃モーションが始まった時、なら次はここのはず）

　冷静に、しかし手には若干の汗をかきながら姫は相手の立場に立った戦略を頭の中で巡らせる。
　瞬間移動した瞬間、ステルスを使って毒霧を回避、できるだけ最小限の動きでスケルトンに近付いての攻撃。
　途中までの成功でも追加ダメージがないことから攻撃の姿勢を強めるナデシコ。

　制限時間に余裕のある状態でお互いの体力はわずかになっていた。
　スケルトンが逃げる先にあるマグマを無視して進み、ダメージを負う。
　スケルトン以上の速度でマグマと毒のダメージが蓄積されていくナデシコ。
　攻撃のヒット率はナデシコの方が上回っているものの、蓄積ダメージでのダメージは無視できない。

（後退は死を意味するです。どうせなら勝ちたいですし）

　毒を受けた時から前に出なければ勝ちにくい試合だと感じていた姫。
　これまでの試合で苛烈に針を模したカタナを振るってはいなかったナデシコも活気付いているようにも感じる。

（タイミングは計られてる気がするよ。毒霧の中に紛れればと思ったのに全然効果ないし）

　対する樹はスケルトンを毒霧に紛れ込ませて攻撃を受けないようにしていた。
　長引けば勝てると判断してはいるものの、どうしてもカタナから逃れられないことが多くなってきた。
　毒液を放って一気に減らすことも狙っているが、ヒット率は低くなる一方である。

「疾さは、強さですよ」
「あっ！？」

　そして、決着の瞬間はあっけなくついてしまった。
　スケルトンが瞬間移動して毒霧のない地点に出現し、毒液を放った時。
　毒霧から現れたナデシコに吸い込まれるように毒液が近づくが、ギリギリで避けられ。
　通り過ぎるような感覚でナデシコのカタナのなで斬りをスケルトンが受け、体力を削りきる。

「火山ステージ、ナデシコさんの勝利です！」

　直也の宣言を待たずして消え行った毒霧の中心からスケルトンを手にする樹。
　同じようにナデシコを手にした姫は樹に声をかけた。

「ありがとうございましたです。毒まみれになった時は負けを覚悟しましたです」
「こちらこそありがとう。疾さは、強さというのは同意しますよ」
「次はどうなるか分からないですけど、うまく足止めされていたら負けてましたです」

　姫と樹はそんな会話をしながら手を握り合う。
　次にスケルトンとナデシコが相まみえるときはいつになるか分からないが、楽しみの一つになったのではないだろうか。