●●●踊るウサギに迫る電子●●●

「二十九回戦、火山ステージでラズちゃんさんとトライアルβさんです！」
「よろしくなぁ！　スピカお姉さん！」
「…よろしく、リュウキ」

　元気いっぱいの様子でウサギのぬいぐるみのような姿をしたギア、ラズちゃんを設置する曖浜 瑠樹。
　静かに返事を返すスピカ・フォーツも全身をナインナイツカンパニーで固めたギア、トライアルβを設置。
　知り合いである二人は挨拶と視線を交わし、微笑みと首肯をこぼす。

『ギアバトル、スタート！』

　開始と同時に動いたのは全身ネコテックブランドのウサギ、ラズちゃん。
　姿と相違なくスピードを出すために全身をバネにして能力を遺憾なく発揮し、マグマを避けてトライアルβに近付いていく。

　トライアルβはアタックとスピードを削り、ステータスの大半をディフェンスに振っている。
　そのため、のろのろとマグマの少ない、相手に戦わせやすい地点を目指して動いていく。

（ラズちゃんに勝ち目があるのは攻撃、回避、そしてほんろう…！）

　にこやかながらも真剣にラズちゃんをトライアルβに向かわせる瑠樹は考える。
　スピードはトライアルβより上回っているため、留まる意味はない。
　先ほどまでのスピカの戦法を見る限り、自らの間合いに誘い込んで捕縛した後、攻撃を繰り返す。
　これは有効なギアにはとことん有効なようで、これまで見たトライアルβの試合4回のうち黒星は1つ。

　相手の特徴は掴んでいるものの、ラズちゃんの遠距離装備はアーム装備、にくきゅうわっかビームのみ。
　それだけではバランス型であるラズちゃんは、トライアルβへの攻撃として心許ない。

（…ってリュウキ考えてる。間違いない）

　ゆっくりではあるがトライアルβを移動させつつ思案するスピカ。
　相手に戦いやすい場所を提供することで攻撃をさせることができる。
　トライアルβにとっては攻撃をさせる、ようは接近させることが勝利への道筋であると言えよう。

　最初の接触はトライアルβの開始地点からそう遠くないマグマが比較的少ない地点。
　トライアルβが近づいてきたラズちゃんに両アーム装備、カルキノス・EXシザーズの盾を薙ぐ攻撃をした。
　しかし、持ち前の俊敏さを生かし、ラズちゃんは急停止して素早く横に向かいつつ盾を迂回。
　攻撃後の硬直にでもなっているのか、ラズちゃんを追わないトライアルβの横っ腹にラズちゃんが体当たりをする。

「やったぁ！　まだまだいくよぉ！」
「…む」

　わずかながらもダメージを与えられた瑠樹は喜びつつもラズちゃんを後退させる。
　遅れて反応するトライアルβだが追撃されても良いようにカルキノス・EXシザーズを構えさせるスピカ。
　しかしそれすらラビちゃんがすでにいない方向への構えであった。

「ラピちゃ…間違えた、ラズちゃん！　飛び降りキーック！」

　高めのジャンプをしたラズちゃんはそのまま自由落下をしつつ蹴りの姿勢をとる。
　そうすることでキックとしての攻撃になり、トライアルβにダメージを与えることができた。
　弾みを利用して距離を取るラズちゃんは即座にトライアルβの背後を取るように移動する。

　ゆったりとした動きでラズちゃんを追うトライアルβであるが、積極的な攻撃を仕掛けない。
　お得意の捕縛の機会を狙っているのか、別の狙いがあるのかわからないが、ラズちゃんにとっては好機と言える。
　苛烈な攻撃を繰り返すラズちゃんだが、瑠樹の雰囲気も相まってなんだか和やかな空間になってしまっていた。

「…蹂躙する」

　トライアルβの体力が1/4程度になった時にスピカがポツリとつぶやいた。
　そして、その一言でトライアルβの動きはがらりと変わることとなる。

「わわっぁ！？　ってあれっ、操作が効かないよぉ！？」

　慌てふためく瑠樹を横目にカルキノス・EXシザーズを操り、ラズちゃんにワイヤーを射出し、ヒットする。
　トライアルβはワイヤーを頼りにラズちゃんへと急接近し、多脚のレッグ装備、”狂気”脚部・改でのしかかって捕縛。
　カルキノス・EXシザーズの盾の裏にある大鋏でラズちゃんを挟むと同時に超高電圧の雷撃がラズちゃんの体力を緩やかに減らしていく。

「生半可な、攻撃で…落とせるなんて、思わないで…」

　捕縛されたラズちゃんは若干の移動はするものの、トライアルβの攻撃を防げない状態になってしまう。
　実はギア自体の捕縛も行なわれつつ、トライアルβのヘッド装備、”狂気”頭部・改参式が大きく関与している。
　これは強力な電磁波でラズちゃんのシステムが一時ダウンし、即座に偽の操作情報を流し込んでいるためである。
　そんなジャミング機能を持つ”狂気”頭部・改参式がラズちゃんの捕縛に貢献する。

　しかし、その誤情報を流すにあたって不可避なラグが生じる。
　それが先ほどからラズちゃんが若干動いていることの証明だろう。
　そのため、表向きには誤操作として扱われていると思い込ませることに成功しているようだ。

「んんー、ラズちゃん！　シールドぉ！」

　移動を諦めた瑠樹はラズちゃんにコマンドと音声情報の2種類の命令を下す。
　そのどちらかが運よく通じたのだろうラズちゃんは肉球をかざし、アーム装備であるにくきゅうまるいシールドが出現。
　カルキノス・EXシザーズからの攻撃を軽減することに成功し、さらに。

「にくきゅうビームぅ！　にくきゅうビームぅ！」
「むむ…」

　盾を構えながらラズちゃんは時折、もう片方の肉球をかざし、アーム装備のにくきゅうビームを放ってくる。
　超至近距離のため、どちらも攻撃を回避することできない状態にスピカも苦い陰を落とす。
　ごくわずかずつ体力が減るトライアルβと緩やかながら、緩やかにしかし確実に体力の減るラズちゃん。

　制限時間も少なくなり、この状況で攻撃を進めるしかないようにも見える戦況。
　しかし、わずかにラズちゃんの体力がトライアルβの体力を下回った時、トライアルβのレッグ装備が動く。
　何度目かのラズちゃんのにくきゅうビームがはなられたとき、カルキノス・EXシザーズを止める。
　トライアルβから代わりに出てきたのはレッグ装備の能力、シールド生成だ。

　「ううん…にくきゅうビームでも減らなくなっちゃった…」

　そう言いつつも攻撃をし続けるラズちゃんだが、トライアルβの体力の減少は目に見えるほどではなくなってしまう。
　そうこうしているうちに終了の合図が鳴り響き、直也から勝者が宣言される。

「勝者、火山ステージはトライアルβさんです！」
「ありがと…リュウキ」
「楽しかったよぉ…ありがとうなぁー！　スピカお姉さん！」

　観戦者からの拍手を浴び、馬乗り状態にあったトライアルβを避けて礼を言うスピカ。
　それに応えるように笑顔になりつつラピちゃんとラズちゃんを抱きしめる瑠樹。