携帯戦記カプセルギア　外伝　『ミッドナイト・ダンサーズ』｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　外伝　『ミッドナイト・ダンサーズ』

　どこか悲しげにも聞こえた声色に、エルは静かに笑った。ほんのりと暖かい彼から滲む感情に、彼女が人であったならば涙を流したかもしれないほどに、胸を軋ませながら。
　エルはそんな感情を伏せながら、平静を装い淑女の笑みを零した。
《ギアの形同様に、愛の形も様々ですね》
　ネオムは答えない。言葉の変わりにリードを変える。ふわり、とエルが回り、二人は向き合った。
《付き合わせて悪かった。ありがとう、エルミナータ》
《いいえ、此方こそありがとうございます》
　ネオムの礼に、エルは首を振る。そして、彼女はふふ、と目を細める。
《そうだ、何曲でも踊れますが如何ですか？　なにせ……》
　私には、アイリスが選んでくれた自慢の足があるのだから、と手を伸ばす。ネオムはしばし考え……私でよければ、とその手をとった。

（ネオムは、多分『あの話』をしてるのかな……）
　脳裏によぎった出来事が、何度も繰り返し巡っていく。的子は踊る２体の姿を見つめたまま、目を細める。
（私は……）
　逢莉からは見えない位置にある手を、ぎゅっ、と握り締めたその時。傍らの逢莉がそっと口を開いた。
「ネオムさんは、踊りも得意なんですねっ。話はわかりませんが、やはり素敵な方ですっ」
　その言葉を的子は素直に嬉しく思いつつ、チクリ、と胸の痛みを覚えた。少女は眼鏡をかけなおしながら、痛みを無視する。
「うん。大切な相棒だよ」
　微笑んだつもりが苦笑となり、どこか遠い目で口ずさんでいた。その横顔が仄かに寂しそうで逢莉は僅かに首をかしげた。
　月光のスポットライトを浴びた、ネオムとエルは、暫くの間ワルツを踊りつつけていた。

　ネージュ、ヴァネッサ、トライアルβの青チーム（真白命名）とラズちゃん、ブルズ、セラフの赤チーム（キリエ命名）は、両者とも徐々に連携をとるのがうまくなっていた。故に、――互角！！
「がんばれ、ヴァネッサ！」
　リタは両手を握り締め、叫びたい気持ちを抑えて応援。ヴァネッサはそれに答えるようにぴょんぴょんと動き回る。
　相手チームのキリエたちも思い思いに応援している。
「すてきね！　ギアたちがじぶんでかんがえてうごいているって、おもしろい！」
「そうだねー！　普段はＡＩＣＯを使っているけれど、それが使えないというのがドキドキだよね。ギアまかせって事だもん」
　リタの言葉に真白が大きく頷く。スピカもこくん、と頷きつつも……気がかりなのはトライアルβに使われている『狂気パーツ』と呼ばれる物。トライアルβの脚部と頭部に使われているそれは、時に発狂を齎す。
　普段は胴部のアスモデアと腕部のカルキノスのお陰で穏やかなのだが、他のギアとの練習試合で感情が高ぶっているのだろう。時に、微妙な揺れやがたつきが見られるのだ。
（発狂しかけている。もしかしたら……！）
　発狂し、他のギアを襲うかもしれない。それが、気がかりなのだ。
《どうしたの？》
　様子がおかしい事に気づいたネージュが、問いかける。だが、トライアルβは僅かに呻くだけ。そして、ついにネージュへと……！

「やっぱり、ぴょんぴょんしているラズちゃん見ると、和むなぁ～」

　瑠樹がほわわん、とした声色でいう。同時に、その場に居たギアやマスター全員がまったり気分になった……気がした。
　ラズちゃんの愛らしい動きにほっこりした瑠樹は、ろっこん『ゆるゆる和みと恩恵の輪』の発動条件（ゆるキャラや着ぐるみ、縫いぐるみ等に和む）を満たしていたのだ！　なお、発動したかは不明だ！
（あっ……）
　瑠樹は自分のうっかりに内心悲しみを覚えたが、キリエは「ドンマイなのですよ」と何かを察して肩を叩く。リタとまことは不思議そうに首をかしげる。
　一方、スピカはギアたちの様子に注目していた。先ほどまで暴走しかけていたトライアルβが、見事に落ち着いているのだ。
《……自分は、なにを？》
《気にしないわ。さぁ、試合の続きを！》
《もっとあそびましょ！》
　我に返ったトライアルβに、ヴァネッサとラズちゃんが言葉をかけ、６体のギアたちは気を取り直して身構える。
（……パーツ、変えてみる？　でも、狂気パーツが戦術の中核……）
　繰り広げられる熱い戦いに、スピカは僅かに目を細め考察の海に沈みこむのだった。

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