【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』｜リアクション

【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』

● プリムとペコラの大奮闘

「今の爆音は……！？」
　包丁を剣代わりにケープの中に潜ませ、裏口前で襲撃に備えていたプリムローズは緊張を漲らせる。
　屋根の方だ。
　見上げれば夜闇の中、白い煙が上がっているのが見える。
　中からペコラが裏口を開けた。腕に嵌めた伝令用の腕輪が光っている。
「コルからの合図だよ～。敵が逃げだしたって。ところで今の音、なに！？」
「見てきます」
　プリムローズはケープをばさりと捌いた。
　ケープの中に畳みこんでいた機械仕掛けの羽を大きく広げる。
　これが、プリムローズが『酉』である所以。力強く羽ばたかせれば、プリムローズの体がふわりと浮く。
「かっこいいねぇ～」
「ペコラ様、惚けてないでバケツを取ってください。……あとをよろしく頼むのですよ」
「らじゃ～！」

　プリムローズは屋根の上の消火活動に尽力した。彼女の素早い行動によって、被害は屋根が焦げた程度に留められた。火が消え、まだ焦げた匂いが燻る屋根の上を検証していると、炸裂イモとテルミツ唐辛子の破片を見つけた。屋根の一部が変形し、埋め込まれた形で燃え残っていたのだ。あたりを見回しても仕掛けた人物の姿は見当たらない。どうせ金で雇われた奴の仕事だろう。
　プリムローズは炸裂イモとテルミツ唐辛子の破片を丁寧に取り除いた。
「……ペコラ様や団長の作戦がうまくいくとよいのですけど」

◇

　逃げた三人の荒くれ者たちは、自分たちの仲間らしき傭兵の誘導に従っていた。
『おい！　どうやら俺ら誤情報におどらされたみたいだ！　こっちだ！』
　街灯のない裏通り。建物と建物の間の細い隙間を縫うように走る。傭兵の顔はよくわからないが、親身に誘導してくれているように思えて、三人は無意識に仲間だと信じ込んでいた。
『こっちだ。ここに隠れろ』
「ここは、バールの倉庫か」
　顔のわからない傭兵が導くまま倉庫に足を踏み入れた三人は、そこで、異様に立派な宝箱をみつけた。
　宝箱には『私を開けて』と張り紙がしてある。
「こいつぁいったい……？」
　蓋を開けてみると、中には、バールが盗まれたと主張したお宝が――ティクスから見ればケチなニセモノだが、一見、豪華な金銀財宝に見えるお宝が入っていたのである。
『バールの奴、盗まれてもいねぇ宝を盗まれたと言って、俺たちを騙したんだ』
「なにぃ！　ならなんで俺たちにあの酒場を狙わせた！」
（え、ええ～っと……）
　物陰に隠れ、魔星(おひつじ座)の力で傭兵の幻覚を見せていたペコラは、今が肝心とばかりに頭をひねる。
（団長だったら何ていうかな）
　団長になったつもりではったりをかます。
『どこでもよかった。バールは騒ぎを起こすこと自体が目的だったのさ。あいつはその隙に――』
　並べ立てる嘘八百の物語。悪徳商人としてその道では名が通っていたのが運のつき、荒くれ者たちは即興のペコラの話に引き込まれ、自分たちはいいように騙されたのだと信じ込んだ。
「くそぅ、バールの奴め……！」
「はした金で俺たちを利用しやがって」
「ぶん殴ってやる！」
　怒った荒くれ者たちは、バールの倉庫を飛び出してゆく。

（バールの傭兵くんたち、ばいばーい♪）

　実をいうと、バールの宝をこの場所に仕掛けておいたのは団長である。ペコラは道を覚える特技を生かし、団長の作戦で必要な逃走経路を考えて、幻覚で敵を誘導した。作戦がうまくいき、ペコラは肩を撫でおろす。
「あとは、伝輪で結果を連絡して、と」
　一つの鉱石を砕いて出来た兄弟石を埋め込んだ銀色の腕輪は、同じ兄弟石間なら、光って通信できる。光るタイミングを信号のように使えば、簡単な合図も送れるのである。
　ペコラはこの方法で『成功』と連絡を送った。
　あとは仲間がうまくやってくれるだろうと信じて。