【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』｜リアクション

【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』

● 矜持

「誇りを持った仕事場であり家をてめぇらに荒らされるのは我慢ならねぇんでな！　悪く思うなよ！」
　巨虎の牙で作られた剣を抜く。
　瞳に宿るは燃える怒り。
　大事な居場所を狙われたコルは、切られようが殴られようが構わずに巨虎の牙剣を振り回す。
「いくら人数が多かろうが道の幅は限られてるぞ。全員いっぺんにはかかって来れなかろう！」
　容赦という言葉を知らず剣を振るい切りかかる姿は、まさに狂戦士！
　ティオレと刀は荒くれ者どもよりむしろ、コルとの距離を意識して戦わなければならなかった。
「ええい、暴れ虎から距離をとれ！　援護を！」
　剣士や闘士の光を宿した荒くれ者たちはコルと間合いを取り、かわりに魔火や魔風の光を宿した者たちが、ファイヤーアローやストームアローを放つ。
「しゃらくせえ！」
　コルはチョーカーに宿った魔土の力で地面を隆起させ壁を作る。
　炎や風は、この土壁に阻まれてコルまでは届かない。
「く、くそっ！　強いぞ……！」
　その時、一陣の銀の風が、荒くれ者たちを割って駆け抜けた。
　コルが拵えた土壁の上にひらり飛び乗り、風はそこから宙に跳んだ。ほんの刹那、赤みを帯びた刀身が夜闇に二筋の軌道を描くのが見えた。次の瞬間、コルの眉間に十二階層スコルピウス山産の蠍鉄鉱で作られたナイフが突きつけられていた。ナイフの名は、蠍毒匕首。遣い手は紅き瞳のサキリであった。
　サキリは底冷えのする眼で言った。
「君は十二支団か？　戦う前にリーダーと話がしたい」
「違う。俺は俺の仕事場を守りてぇだけだ。リーダーなんてのもいねぇ」
　コルは言い切った。こいつに絶対に負けてはいけないと思った。ティクスのためにも、団員たちのためにも、今この眼に負けてはだめだ。踏ん張らなくてはいけない。コルは自分にそう言い聞かせた。
　サキリはナイフを突きつけたまま、ふうん、と言った。
「ちなみに僕は元裏社会の住人でね。義賊気取りの輩は昔見た事がある。まあ義賊なんてのは所詮自己満足の犯罪者、結局そいつは道を見誤って単なるクズに成り下がった。仮に十二支団が義賊を名乗るなら、同じ道を辿らないという保障はあるのかな？」
「あんたの昔話にゃ興味ねえな」
「まあ聞きなよ。こっちの彼らは、十二支団のアジトを壊滅させろって依頼を受けてここまで来たんだ。ここがそうじゃないとしても――むしろそれならなおのこと――どこかで十二支団の奴らが様子を窺っているかもしれないじゃないか。そいつらに聞かせてやりたいんだ。僕は十二支団の真価を見定めたい」
「……」
　サキリの視線はまっすぐにコルに注がれたままだ。一時も気が抜けない。コルの背中に冷たい汗が流れ落ちる。自分でも知らず、緊張しているのだ。
「彼らがクズと同程度の存在ならここで切り刻んで退治するのみ。しかし筋の通った矜持を感じられたら――」
　サキリの言葉に、何か一言でも答えたら、きっと負けだ。
　この場所は『偽』だと荒くれ者どもに思わせるティクスの作戦は瓦解する。
　コルは胸の中だけで言い返す。
　ここには『誇り』がある。『信じられるもの』がある。
　誰がなんと言おうとも、『絶対に守りたいもの』がある。
　それを矜持と、呼べはしまいか。

　この有様を、夜の闇に溶けるような色をした屋根の上から、見ている者がいた。黒ずくめの衣装に身を包み、覆面とゴーグルで顏も隠している。
　黒ずくめの男は屋根の上に寝そべるような恰好で呪術の星の力を宿したライフルを構える。
　照準器の十字の中央には、虎の獣人の姿が捉えられている。
　照準を脚のほうに下げる。
「……」
　意識を集中させ、引き金に掛けた指に力を籠める。
　そのときである。諍いの真っただ中に紅き竜人シグマが飛来した。