一夜限りの夢｜リアクション

一夜限りの夢

●月をのむ

「――……ここは？」

　アルレッテ・ザメニスは周囲を見渡す。景色を眺めながら、アルレッテはここが寝子島なのだろうと思い至った。

「せっかくだから今回はどこかお店に入りたいな」

　周りを見ると、1つの看板が目に入った。そこには『BAR【Holländer】』と書かれていた。

「Bar……？　こっちのお酒も味わってみたいから、行ってみようかな」

　アルレッテは心の赴くままに看板に書かれた店を目指して歩き出す。
　その店はとあるビルの地下にあった。会員制の店のようだが、今日は会員以外も入れるらしい。ゆっくりと扉を開けて中をのぞくと、そこは水に満たされた空間だった。思わず驚きの表情を浮かべるアルレッテ。

「水の中にいるなんてすごく粋な演出だね」

　星幽塔に住んでいるからか、この事態に疑問を抱くことなく素直に受け入れる。長い髪を泳がせながら店内へ進んでいく。

「内装も素敵だね、水没船みたい。ああ、なんだか落ち着くなぁ」

　カウンターに腰掛けるとマスターである藤堂静に話しかける。

「えーっと、これ、どれくらいあれば飲めるのかな？」

　アルレッテは持っているお金をカウンター越しから手のひらに広げて静に確認する。どうやら1杯は確実に飲める金額らしい。

「どれが飲みたいっていうのは決まってないから、おすすめがいいんだけど……」
「どういうのが好きですか？」
「甘いのが好きかな。ふふ、作る薬もつい甘いのにしちゃうんだよね。あとは……月、かなぁ。好きなんて言葉じゃ収まらないけれど、大切なんだ。ああでも、こういうのは関係ないかな？」

　小首をかしげて尋ねてみる。静はそんなことはないといったように頭を振った。そして少し考える素振りを見せたあと、ライチリキュールをグラスに注ぎ、そこにクランベリージュースを加える。これをソーダで満たせば『レッドムーン』だが、静はグレナデンシロップを加えてからソーダを注いだ。『ルビームーン』と呼ばれたそれがアルレッテの前に置かれた。

「わぁ……すごく綺麗だね」

　静かめに感嘆の声をあげつつ、カクテルの説明を聞く。静によると、途中で加えたグレナデンシロップで甘みと赤みが増しているらしい。

（『レッドムーン』の赤みを強めて『ルビームーン』か）

　月がモチーフに入っているのが嬉しくてふわっと笑った。味の好みも考えられていて、一口飲んでその美味しさに目を細める。

（また来てもいいかな？　今度は人を連れて）

　アルレッテは美味しさを楽しみながら次の来店を考えていた。

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