レイン・チョコレート・レイン｜リアクション

レイン・チョコレート・レイン

◆料理少女の午後

「お～すご……」

　放課後の屋上で、高梨彩葉はこう零す。彼女の目の前に広がっているのは、チョコレートのいっぱい詰まった箱が雨の如く降っている光景だ。彩葉は積もっているチョコレートをひとつひとつ手に取ると、それをよく見て、目を丸くした。

「ってこれ高くて中々手が出せない製菓用のチョコじゃん！！」

　今彩葉の手にある物は、製菓用のチョコレートでもとりわけ質の良い、それゆえに高級なもので。屋上に彼女の叫び声が響く。

　――こんなチョコも落ちてくるとか神か！　神魂だけに！！

　彩葉はそう思いながら、カバンに製菓用チョコレートを拾い集めて入れていった。それが終わると、きょろきょろと辺りを見回して他のチョコレートを物色する。積もっているそれらはスーパーやコンビニで売っているような普通の板チョコもあれば、製菓用のもの、ブランドものの高級チョコレートまで様々だった。

「おぉ、有名チョコレート店のチョコとかも落ちてる！」

　彩葉は感心しながら、ニャディバのパッケージを開ける。中に並んでいるトリュフを一つ一つ手に取って味わうと、しみじみとこう言った。

「いやー、本当に何でもありだね」

　ニャディバの箱の次は、これも有名チョコレート店のものであるダイヤモンド型の箱を開く。彩葉はこの夢のような空間に感謝しながら、チョコレートを食した。

「うん、美味しいね～。こういう神魂が続いてくれたら幸せかもなー」

　しかしチョコレートばかりというのも飽きてしまうだろうからと、彩葉はポテトチップスやパッキーの降ってくる光景を想像しながら、ふわふわと考える。夢見ればどこまでも思いつくものだ。
　そうしているとふと、他の人が何を食べているのか気になりだした。彩葉は隣にいた少女に声をかける。

「ねーねー、どんなチョコ食べてるの？」
「ウチ？」

　少女は首を傾げながらも、手元にあるチョコレートの箱を彩葉に見せた。

「ウチはなぁ、これやこれ。アーモンドチョコ」
「おお～……おいしそう」

　少女は彩葉に箱を差し出す。食べていいよと言いたいのを察して、彩葉はその一粒をありがたくいただいた。

「幸せやなぁ……」
「だね～……」

　少女はにこにことチョコレートの山を見ている。彩葉も暫し幸せに浸ってにこにことしていたが、カバンの中の製菓用チョコレートを思い出し、その場を発った。

「私、帰るね」

　彩葉が愛想よく言うと、少女は手を振って見送る。彩葉はそれに返しながら、寮までの道を急いだ。

「さ～って、何を作ろうかな」

　彩葉は調理器具と材料を並べると、袖を捲る。寮のキッチンは今、彩葉一人だ。レシピ本を開きながら、彩葉は何を作るか考える。トリュフ、生チョコ、ガトーショコラ、チョコレートエクレア……。それら全て作っても余るほどのチョコレートがある。いくらでも作れそうだ。

「いっぱいチョコのお菓子を作れるから迷っちゃうな～」

　準備を進めながら、彩葉は出来たお菓子をどうするかぼんやりと考える。材料を見るだけでも、とても一人じゃ食べきれない量だ。誰かにおすそ分けした方がいい。

　――もちろん、……。

　彩葉は喜ぶ恋人の顔を想像して、ふふっと笑った。

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