悠久のアクアマリン｜リアクション

悠久のアクアマリン

　洞窟の中には潮の香りが満ちていて、足元で弾ける波の飛沫と相まって
浜で眺める時よりも海に満ちる生命の流れを強く感じさせた。
頭上に広がるのは抜けるように高い空、ではなくただの岩……
それがいつもとは少しだけ違う日常を感じさせ、いやがうえにも冒険心をくすぐられる。
神経を研ぎ澄ませ、警戒している心の動きすべてが、刀の防衛行動に繋がっていた。
しかし刀の警戒とは裏腹に、一同は何事もなく、順調に一つ目の十字路に到着する。
水路には飛び石のようにところどころ岩が突き出しており、
さほど苦労することもなく渡ることができた。
可愛らしい真白の声が、地図を確認しながら一同の冒険の進捗を知らせる。
「えーと、ここが一つ目の十字路だからここはまっすぐだね。
このまままっすぐ行って次の十字路を右だよね」
　そう指差し確認する真白の示す先にはただただ海色の道が伸びるばかり。
特に危険が待ち受けている様子も無い。
　もしかして、このまま何事もないのではないか。
あれこれ心配したことは全部杞憂に終わり、
意外と楽にアクアマリンと対面してしまえるのではないか。
そんなムシのいいことを考えた者も出始めた頃。
「なんか、一向に十字路に辿りつかない……気がします」
　古地図と歩いた距離を見比べていた美咲紀がぼそりと呟いた。
歩数で距離を測って地図に書き込んでいた美咲紀は、
早いうちから、通り過ぎた一つ目の十字路とまだ見ぬ二つ目の十字路の間に
妙に距離があることに気が付いていた。
しかし、こちらは十人。夜目の利くメリィや洞窟に強い瓢もおり、
いくらなんでも二つ目の十字路を見逃すはずはない、と思ったのだが。
「あれ、行き止まりだ」
「おやぁ、一本道だったはずなんだけどねぇ……？」
　マッピングしながら歩いていた樹と瓢が揃って首を傾げる。
「もしかして、なにか仕掛けを見落としたかな」
　こういう場所での定石だよね、と話す樹に、一同は来た道を振り返る。
通ってきた時と同じく、そこには海色の何もない道が伸びるばかりだ。
そう。　『何もない』道が。
「……そうか、何もないのはおかしいんだ」
　修がはたと気が付き声を上げる。
「どういう意味？」
　辺りを見回し、匂いを嗅いでいたメリィが聞き返した。
「地図には、十字の水路が縦にふたつ並んでいるはずだった。
でも、ここに来るまで俺たちは、二つ目の水路を跨いでいない。
おそらく水路に何らかの仕掛けがしてあって、
俺たちはその上を気づかないままに渡ってしまったんだろうと思う」
「へえ……盗掘対策ってわけかねえ。こりゃ面倒になってきたな……ひっく」
　修の推理を聞いたゲースがふらふらとした足取りで元来た道を戻り出す。
慌てた莉鳥が制止した。
「ちょっと、勝手に動いたら危ないわよ」
「んなこと言ったってよぉ、
この道が行き止まりならどっちにしろ戻るしかねぇだろぉ」
「それはそうですけど、せめてさっきみたいに
隊列を組んで歩きましょう、ゲースさん」　
　リリエルにも説得されて、ゲースもしぶしぶと踵を返し、
来た時と同じく、刀、真白、メリィ、樹、瓢、修、美咲紀、莉鳥、リリエル、ゲースの順で
あたりに注意を払いながら来た道を引き返すことにした。