悠久のアクアマリン｜リアクション

悠久のアクアマリン

　光の届かないはずの洞窟の中は、
しかし、昼の明るさとまではいかずとも
視界に不便はないほどの明るさに包まれていた。
水路上になり足場の脇を流れている海の中、
水の中になにか発光する生物がいるらしく、
波が打ち寄せるたびに青い光がゆらゆらと揺れ、
洞窟内部は幻想的な雰囲気に満たされていた。
聞こえる音は岩壁に反響した波音と、
ライトで足元を照らしながら慎重に進む自分たちの足音のみ。
まるで海の中を歩いているのかと錯覚してしまいそうな光景に、
一同は思わず声を出すことさえ忘れていた。
「すごぉーーーい！！」
「綺麗ですねえ……！」
「へえ、見事なもんだ。酔いも醒めちまわぁ」
いち早く我に返ったメリィとリリエルとゲースが
それぞれに感嘆の声を上げる。
普段見慣れない、想像もしなかった目の前の光景。
　修が目を凝らせば、眩しいほどの水の中で
小さな球状の何かが青く発光しているのがわかる。
「クラゲ……か？」
　つられて莉鳥も覗き込めば、水路の中で輝くのは、
夜の青と海の蒼で染め上げられた透明感のある水の揺らめき。
まるで青い水を固めたような何者かが揺れ光る姿は
それ自体が既に宝石の様にも見えた。
遥か悠久の昔から、海の中で変わらず生きる生命の美。
絵にも描けない美しさ、とでも言うのだろうか。
決して保存の効かない生命だからこそなし得るきらめきは、
たしかに永遠に人の記憶に残る宝石のごとき華やかさ、だが……。
「これが悠久のアクアマリン……じゃない、です、よね？」
　美咲紀も莉鳥と同じことを考えたのだろう。
若干心配そうな声でつぶやいた。
「馬鹿お言いでないよ、洞窟はまだまだ先まで続いてる。
地図だって、示してるのはこの先だろう？」
　瓢が指し示すのは、水路の奥へと続く一本道。
地下で暮らすことに慣れた瓢は、
手にした古地図と見比べて、大きな齟齬がないか確認していたようだった。
「なにか手伝おうか」
　そう申し出た樹と手分けして、古地図での道の確認を樹が、
ゼロから再度マッピングしなおす役を瓢が担うことになった。
「あたし夜目が利くから、ふたりはあたしについてくれば大丈夫だよ！」
　注意力が散漫になりがちな二人の周囲を夜目の利くメリィが警戒する。
水路横の足場は狭く、一同が固まって歩くことは難しい。
念のため、先頭、中央、殿と三か所に男性陣を分散させ
万一の時に対応できるよう考慮して進むことにした。
まず、興味津々といった様子の真白と、剣術の心得のある刀が先頭を歩く。
続いてメリィに連れられて、マッピングをしている樹と瓢。
周囲をこまめに調べながら歩く修と美咲紀も、念のために独自にマッピングをしているようだ。
続いて、足元を照らし周囲を警戒しながら莉鳥が続く。
そして最後に……。
「ゲースさん、すいませんが転ばないように、手をにぎってもらえますか？」
　リリエルがゲースの方に手を伸ばす。
足元は明るいが、危険な岩場であることには変わりない。
加えていつも潮が満ちているせいか、
淡水の岩場とは違ってべたべたぬるぬるとやや足元が滑りやすいのだ。
冒険に慣れていないリリエルが怯えるのも無理はなかった。
「おっと、濡れてて怖いのかいリリエルちゅぁん？
へへん、ここは俺がエスコートしてやるぜ、
これでもいっぱしの騎士なのさマドモワゼル」
　そう言って優雅に差し出されたゲースの手を、
リリエルがそっと握ろうと……した直前、
岩場にこびりついていた海藻を踏んづけて、ゲースの方が先に転倒する。
「って、ぬわぁぁぁっ！　イテテ！」
「あ、ゲースさん！　大丈夫ですか！？」
　波音満ちる洞窟に、ゲースの悲鳴と大きな転倒音、
そしてゲースを案じるリリエルの声が響き渡るのだった……。

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