大学生がやってきた！　～寝子島中学の日常～｜リアクション

大学生がやってきた！　～寝子島中学の日常～

　実習生たちに宛てがわれた空き教室で、教育学部のクルト・エールヴァールは考えていた。
（短い期間ではあるが、多くの事を学び有意義な実習にしよう。となれば、やはり皆との交流だな。まずは他の実習生たちの話も聞きたい所だな）
　その部屋にクルトの他には数人の女子学生と一人の男子学生がいた。
（同じ大学ではあるが、学部などは違うようだ。ならば、様々な意見が聞けるかも知れない）
　さっそく名札を見て、快活そうな女子学生に話しかけてみる。
「教育学部のエールヴァールだ。城山さんは何の教科を担当するのかな」
　声をかけられた城山水樹はクルトの顔を見た。
（金髪に青い目……モデルができそうなくらい美形だけど、目つきが鋭くて堅物そうね。教師向きだわ）
　そんなことを思いながら答える。
「社会学部３年の城山よ。社会科を教えるわ。たまたまスケジュールに空きがあったので、何となく参加してみたの」　
　水樹はファッション雑誌と有名コスメブランドの専属モデルだ。
　多忙な日々の合間を縫って大学の授業に顔を出しているが、社交的なノリのよさで今回参加することになった。
　服装も化粧もごくごく控えめ、無難なものにしたが、やはり人目は引くらしく職員室での紹介の際は先生方の注目を集めていた。
「なるほど。仙藤さんは？」
　次にクルトが声をかけた仙藤紫も、肌が綺麗な落ちついた美人だった。スーツスタイルで纏めている。
「文学部心理学科１年生よ。将来は研究者か公認心理師などの職に就きたいの。担当は数学。実際に教育実習を受けるかどうかはともかく、何事も経験と思って参加してみたわ。３年に妹がいるの」
　本を開いていた眼鏡の男子学生も話に加わった。
「俺は海原茂。社会学部１年生だ。担当教科は社会だ。エールヴァールはイケメンだから女子学生に騒がれるんじゃないか」　
　無表情に言う茂に、クルトもにこりともせずに答えた。
「嬉しいが、それは個人の好みや美的感覚に起因するものだ。俺を普遍的に表すものではない」　
　顔立ちは整っているクルトだが自身の容姿にあまり頓着せず、イケメンなどと言われてもピンと来ないのだった。
　鋭い眼光の眼鏡の女子生徒も口を開いた。
「私は教育学部１年生の北風貴子。国語を教えるわ。それにしても、生徒たちの風紀がなってないわね」
　その時、天然パーマの小柄な女子が入ってきた。
「ここが控室か」
　戸口の傍にいた貴子がまなじりを上げる。
「入るときにはノックをなさい。生徒が何の用事？」
「……違う！　わたしは大学生だ！」　
　小柄で童顔な葉月朱真は、どうしても生徒に見られがちだった。
「あらごめんなさい、てっきり……」
「今年の８月で二十歳になると言うのに、なぜいまだに中学生に見られるのだろうか？」
「じゃあ私と同級生ね」
　そう言った水樹の身長とプロポーションに、ついみんな比較の視線を向けてしまう。
　いつものこととはいえ、朱真はショックを隠せない様子だ。
「葉月さんか。教育学部のエールヴァールだ。何の教科を担当するのかな？」
　そんな空気を気にする様子もなく真面目にクルトが声をかける。
「理工学部情報工学科在籍だ。情報を担当する」
「中学で情報の授業？」
　首を傾げた紫に、朱真は答えた。
「情報は高校からの教科だが、入門授業として許可をもらった」

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