大学生がやってきた！　～寝子島中学の日常～｜リアクション

大学生がやってきた！　～寝子島中学の日常～

「教育実習生が来るんだよね」
「授業体験の大学生も来るって聞いたよ。うちのクラスにはどんな先生が来るのかな」
　仙藤蒼のいる３年３組の教室は、そんな話題で持ちきりだった。
「蒼のお姉ちゃん、大学生なんでしょ」
　クラスメイトが聞いてきたので、
「そうだけど、参加してるかどうかわからないよ」
　なんてのんきに答える蒼。
（仮に参加していたとしても、多分別のクラスか学年に行くよね）
　と思っていたのだが……。
　戸が開き、担任の加藤秀雄先生の後ろから入ってきた、スーツにタイトスカートが良く似合う大人びたその女子大生は、紛れもなく自分の姉だった。

（そうか、ここは蒼のクラスだったのね）
「あっ！」というような表情をする妹の顔をちらりと見て、仙藤紫は思った。
　何事もなかったように自己紹介する。
「仙藤紫です。よろしくお願いします」
「仙藤？　えっ、蒼のお姉ちゃん！？」
「えー、綺麗！」
「あんま似てないよね？」
　一気に教室は盛り上った。
（あちゃー、一発でバレた）
　頭を抱える蒼。
　短めの髪で、好奇心旺盛で自由気ままに生きている蒼に対して、姉の紫はセミロングで大人びた美人だ。
（いやまあ、大いに自慢できるお姉ちゃんだけど、それではやし立てられるのはちょっとなー……）
　なんて思ったが。
「静かにね。私はみんなの先生として来てるのだから、妹だって生徒の一人よ。さあ、授業を始めましょう」
　紫は中学生たちを怒鳴りつけることもなく、たおやかに優しく窘める。
　ペースを崩さない紫の様子に、騒いでいた生徒も黙ってしまった。
（私にはあんな芸当はできない。これだけで女子力はお姉ちゃんが圧倒的に上だということが判るよね……）
　感心しつつ、ちょっと負けた気分になる蒼だった。

　加藤先生は教室の後ろに回り、紫は数学の授業を始めた。
　教育実習ではなく、あくまで体験授業としての参加だ。
　肩の力を抜いていいと思うけれど、やはり先生として真面目に授業をする。
（少しでも数学に興味を持ってもらえるよう、わかりやすく楽しい授業にできるといいけど）
　生徒たちは真面目に授業を聞いてくれて、加藤先生は見ているだけでほとんど口を挟まなかった。
（蒼の姉ってことで少しは興味を持ってくれたかしら）

　授業が終わり教室を出た紫に、蒼が声をかけた。
「びっくりしたよ、お姉ちゃんが私のクラスの体験授業に来るなんて」
「私もまさか妹を教えるなんて思わなかったわ」
　姉の顔に戻って微笑む紫の顔を、蒼は覗き込んで聞く。
「お姉ちゃん、教師になる？」
「悪くないわね」
　紫は軽い調子で答え、手を振った。
「それじゃ、勉強頑張ってね」
「お姉ちゃんもね」
　生徒たちから離れると加藤先生が言った。
「初めてとは思えない授業でしたよ。これなら一人で大丈夫」
「ありがとうございます」
（次の授業も頑張ろう）
　と思いながら微笑む。

　紫を見送った蒼はクラスメイトに取り囲まれた。
「いいなあ、綺麗なお姉さんで。加藤先生も嬉しそうだったよね」
「お姉さん彼氏いるの？」
「あー、そこは個人情報だから」
　ごまかそうとする蒼だが。
「えー、あんな美人だもの当然いるでしょ？」
　結局、次の授業のチャイムが鳴るまで蒼は質問攻めから開放されなかった。
　

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