素敵な１枚はきっとどこかに｜リアクション

素敵な１枚はきっとどこかに

●残したい思い出

　とある休日。鴻上彰尋は風景の写真を撮るために外を歩いていた。ポケットにはコンパクトデジタルカメラが入っている。このカメラは多機能ではあるが、高校生が持つにはいささか高価だ。そこで自分のお年玉と兄の協力を得て購入した代物。そこまでして買ったのは下の弟妹達の成長や家族との思い出を沢山形に残しておきたかったから。彰尋自身が小さい頃の写真がまともに残っていないことも大きい。
　カメラを購入してから5ヶ月。最初の頃はカメラの機能もよく分からず、ピンぼけや手ぶれに悩まされ続けた。しかし休みのたびに出かけては練習を続けた成果だろうか、さすがにピンぼけは無くなってきた。しかし彰尋は上手に撮れているという実感がなく、もう少し上手く撮れるようにとこうして今日も出かけている。
　気付けば彰尋は旧市街に足を踏み入れていた。シーサイドタウンとは趣が異なり、レトロな街並みが広がっている。どことなく時間の流れもゆったりと過ぎているように感じる。
　旧市街を北へと進んでいく。その道中で気になったものをカメラに収める。塀の上で寛ぐ猫や懐かしい佇まいの喫茶店。参道商店街では様々な店が並び、いろいろな商品が目に入る。ほかにも旧市街ならではの木造駅舎、寝子島駅。そしてそこにある巨大な七福猫のモニュメント。

「あ、そうだ」

　彰尋は鞄から雑誌を取り出す。カメラ情報を扱う雑誌だが、これは初心者用の特集を組んでいたので参考になればと思い購入した。内容はデジタルカメラの基礎知識からおもな機能一覧、太陽や電光の方向を意識した位置取りや被写体の捉え方など。それらを意識しながらまだ通っていない道を通りつつ撮影を続ける。
　気がつけば太陽がオレンジに変わり、空のむこうへ沈もうとしていた。そろそろ帰ろうと家に向かって歩き出そうとして、ふと見えた光景にカメラを向ける。呼吸を整え、足場を確認しながら慎重にシャッターを切る。
　カメラを確認すると、そこには夕日に照らされた旧市街の街並みが映っている。漫然と撮ったわけではない。光の加減や撮影する範囲など、それらを意識したからこそ撮れた１枚。まるで旧市街の空気がそのまましまってあるような写真だった。

「帰ったら家族に見せてみよう」

　彰尋はそんな気持ちを胸に旧市街を後にした。