素敵な１枚はきっとどこかに｜リアクション

素敵な１枚はきっとどこかに

●そこから見えるもの

　旅鴉月詠はふと思い立つ。新たなインスピレーションを求めて散歩に出かけようと。ただし、カメラを持って。

　絵に比べれば写真は簡単に像を作れるけれど、その装置は作るのは大変だった。しかし原理は紀元前には既に発見されていたのだという。暗い部屋に穴を開けて、穴とは反対側の壁に映った像を見ていたという。しかし原理こそ写真だが記録する機能がなかったため、用途はおもに素描などのために使われた。
　それから長い年月をかけてレンズの発明、小型化など様々な改良が施された。そして人間を使わず科学的に写し取るために苦心し、とうとう今日使われるカメラを完成させたのだ。
　つまり、この小さな箱はヒトが作り出した技術の結晶である。

　真に写すもの。写し取ったものは紛れもない真実である。

　という知識はおいといて、と月詠は自らの思考を一旦止めた。カメラを手にしたまではいいが、何を撮るかまでは決めていない。

　寝子島らしいものを撮るべきか。いや、色んなものを節操なく撮っていこうか。
　なにか１つに決めると視野が狭くなりそうだ。ひらめきはどこから生まれるか分からないし。
　猫とか、街とか、電車とか、サンマさんとか、神社とか、山とか。撮ろうと思えば対象は山ほどある。

「数日がかりの作業になるが、まあそんなもんだ」

　寝子島は意外と広い場所だしな、と１人納得する。そう決めると、街へ向かって歩き出した。
　まずは星ヶ丘から歩いていこう。地中海を思わせる景観で、丘には白い建物の高級ブティックやレストランが並んでいる。お高くとまったセレブな猫たちは、だいたい屋根の上でのんびりしている。

「猫缶を見せれば寄ってくるだろうか」

　試しに手荷物から猫缶を取り出してみる。しかし興味を持ったのは数匹だけで、思ったほど猫が寄ってこない。たまたまなのか、あるいは好みではないのか、そもそも猫缶というものに興味がないのか。それは分からなかった。気を取り直して撮影を始める。
　欧米を思わせる街並み、そこから見える海の姿。駅の外観など。見つけたものをひたすらに写真へ収めていく。これらの写真をアトリエに持ち帰り、実際の星ヶ丘に照らして並べていけば星ヶ丘地域のカタチを為すだろう。
　いずれ完成する作品は寝子島のカタチをしたコラージュ。寝子島の断片的な姿からこの島全体が浮かび上がる。

　そこには間違いなく寝子島がある。