Mother's Day がやってくる｜リアクション

Mother's Day がやってくる

☆天国の貴女に

　八神修は、朝、フラワーショップ花咲里に立ち寄った。
「いらっしゃいませ。どんな花にしましょうか」　
「ああ。やはりここはカーネーションかな。白……。いや、遠くに居るだけなんだから赤……」
　修の実の母は、天国にいる。
　けれど寝子島に来て不思議な体験により、天国の母と何度か会うことが出来た。
　華やかな色合いにしたいが、と悩む修に月桂がおっとりと声をかける。
「あの、カーネーションも赤白だけじゃなくいろんな色がありますよ。ピンクにオレンジ、紫……青も」
　その言葉に修は反応した。
「え、青？」　
　月桂は、姉に聞いたことを思い出しながら説明した。
「はい。２０年位前から商品になってます。花言葉は『永遠の幸福』と言います」
「それをもらおう」
　修は空に似たアクアブルーのそれを、両手一杯買った。

　そのまま列車に乗り、本土へ向かう。
（会いに行って色々話したい。天国の貴女に、届くように……）
　実母と気持ちを伝えあえたから、辛さはかなり軽くなっている。
　修が大人になりつつある事もあって、父への理解も深まっている。
（それでも……かあさんは恋しい。失った悲しみは消える事はない）
　けれど修は思うのだ。
（それでも、乗り越え、耐えることはできる筈だ）　
「どなたのお墓参りですかな」　
　母の墓のある寺で、住職に声をかけられた。
「……大切な人です」
　母とは言えない。
　表向き母と呼ぶ父の妻がいるのだから。
　
　人の訪れた形跡のない母の墓に、修はアクアブルーのカーネーションを手向けた。
（かあさん
　今日は良い天気ですね
　天国からも此処がよく見えることでしょう……）　
（学業は順調、農作業だってするようになりました。意外でしょう？　友達も増えましたよ。大事な家族の猫たちもまた増えました）
　心の中で修は語りかける。
（冷え切っていたあの人との関係も少しずつ改善している。父さんのことも理解できるようになってきていると思います）
　修は、天国でのかあさんの幸せを願って手を合わせる。
（どこからか……かあさんの声が聞こえるような……）

『シュウ、……元気で』
　それは音として聞こえたものではないけれど。
　あの時つないだ手を思いだしながら、その言葉が浮かんだ。