Mother's Day がやってくる｜リアクション

Mother's Day がやってくる

☆おかん、仕送り増やして！！

　四野辺蘭月は、東京圏と一人暮らしへの憧れから兵庫を離れ寝子島にやってきた。
「母の日か……おかんと最後に会ったのは正月に帰省したときか。マトモに生活できてるんかめっさ聞かれたわ。あと仕送り額は増やしてもらえへんかった……おかんケチやからな」
　仕送りはギリギリの金額しか送ってこないので、蘭月はコンビニでバイトもしている。
　だが、蘭月の趣味は買い物、特に買い食いである。その上新製品や期間限定品に弱い。
「こっちはカッツカツやっちゅーねん！　そろそろ夏物の服とかアクセとか出るし！　昨日はバイト先で大量にお菓子買ってもうたし！　シフト増やすのも限界あるしなー」
　そんなわけで、蘭月にとって今年の母の日はプレゼントどころではない。
「母の日やっちゅーて電話してみよか。ついでに仕送りの話しよ」

「もしもし、あたしー」
「あたし？　オレオレ詐欺は間に合っとるで」
　陽気だが銭にはうるさい関西人、蘭月の母、四野辺紫である。
「そう、オレだよオレ、……じゃなくて、蘭月やて。もー、自分の娘の声わからんの？」
「アンタかいな。ちゃんとやっとるか」
　若い頃は巨乳美女だったらしい紫だが今はややオバハン化しつつある。
「うん……元気そうやな。母の日やから電話してみたで。そんでな……仕送り……」　
　さっそく切りだしてみたが。
「あかん。自分でなんとかしいや」
　すげなく断られた。
「え、ダメ？　今月だけでも！　今月ピンチやねんよー！」
　母は単にケチなだけではない。
　蘭月に金遣いの荒さを自覚させ、自己改善させる目的でもあるが、残念ながら蘭月にはまったく通じていないのだった。
「アンタバイトもしてるんやし、やればできるはずや。おばちゃんも言っとったで」
「おばちゃん……そやけど、今回だけ、なあ」
　先日突然現れてテストしていった寝子島住みの叔母ちゃんの顔を思い浮かべながら、蘭月は泣きつく。
「あかんあかん。いくら仕送りしたって、ムダ遣いしたら一緒や。あっという間に使こうて終わりやろ。アンタ上京するときの条件忘れてへんか」
「うっ……」
　そう言われると一言もない。
　蘭月が上京するとき「生活費くらい自分で管理しぃや」という条件でＯＫしてもらったのだった。
「お菓子じゃなくちゃんと食材買って自炊しいや。食うていくのに十分なだけの仕送りはしてるで」

　結局、増額は諦める羽目になった蘭月である。
「おかんのケチー！」
　受話器を置いた後叫ぶ蘭月の心は、けれど少しだけ温かくなっていたかもしれない。