Mother's Day がやってくる｜リアクション

Mother's Day がやってくる

☆三重の母に

　寝子島駅ロータリー近くにある、フラワーショップ花咲里。
　三つ子の三女である寝子高生の花咲里月桂は、不安と戦いながら開店の準備をしていた。
（姉様たちは都合が悪い日だし、お祖母様は配達から帰ってこないし、両親が海外から帰ってくるのはまだ先。私だけで切り盛りできるか不安です……）
「でもがんばります！　月桂、ネバー・ギブアップ！）
　おっとりした見かけどおり人見知りだが、月桂は外見からは想像もつかないほどチャレンジ精神旺盛でもあった。
（今日も吐かないように、薬で抑えてあるし、大丈夫、大丈夫だから）
　実は月桂は稀に“吐血する”持病持ちで、命に別状はないが気をつけている。おまけに貧血でもある。
　……大丈夫なのだろうか。

　とはいえ、見かけはいつもの穏やかな花屋と変わりない。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、カーネーションの鉢植えをください」
　元気いっぱいにポニーテールを揺らして、椿美咲紀がやってきた。
（そういえばもう母の日なんだっけ）と思い至る月桂。
「母の日のプレゼントですか？　何色にしましょうか。カードもつけられます」
「はいなのです、母の日のプレゼントなのです。地方発送して欲しいので、元気な株をお願いしたいのです」
　花好きな美咲紀としては、万が一にもせっかく送った花がしおれていたりショボかったりというのは避けたい。
「定番だけど赤いカーネーションがイイですね。カードはシンプルに『お母さん、いつもありがとう』で」
「かしこまりました」
（お客さま全員の母の日がうまくいきますように）
　そう願いながら月桂はカーネーションの準備をする。
「はい、これなら瑞々しくて綺麗で、元気で問題ないのです」
　月桂の選んだカーネーションを見て、美咲紀は満足そうに頷いた。
　ほっとしつつ月桂は、自分の母のことを思う。
（お母様……私から見れば、きれいで、つよくって、お店と花のことなんでも知っていてそれでふんわりした御人でした）
　思いだしながら吐血をこらえているのだが、顔には出さない。
「ありがとうございました」

　星ヶ丘寮に戻った美咲紀は、三重県北部の実家の母に手紙を書くべくレターセットを選び始めた。　
（家族とはこまめに連絡取っていますけど。母の日はやっぱりお母さんに何か贈り物をしたいものなのです）
「花とお菓子、あと手書きでお手紙を送るのが良いですね。ありがとうを言うのは良い事なのです」
（お気に入りの洋菓子屋さんで買った焼き菓子と一緒に送るですよ。どのレターセットにしようかな）
　花好きな美咲紀は、レターセットも様々な花のデザインのものを揃えている。
　あえてカーネーションは外して、アイビーで装飾を入れた初夏っぽいデザインのものにした。
　考えながら、丁寧に文字を綴っていく。

『お母さんへ。

　母の日なので。
　お菓子と、別便でお花を送りますです。

　いつも色々とありがとうなのですよ。

　面と向かっては照れて言いづらいので。
　手紙で感謝の気持ちを伝えることにしましたです。

　遠くに居るから色々と心配かけてると思うけど
　楽しく勉強・部活動に励んでいるので安心してください。

　充実の毎日なのですよ。

　ホントにホントにありがとうなのです』

「感謝の心は大切なのですよ。手紙だと感謝も素直に書けるのです」
　電話だとたくさん話せるけれど感謝もノリでつい冗談に紛らわしてしまったりするし、楽しいけど話した後内容が残らない。
（時々は心をこめて手紙を書くのもいいのです）
　と美咲紀は思った。

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