Mother's Day がやってくる｜リアクション

Mother's Day がやってくる

☆待ってる

　この季節、町でカーネーションを見かける度に、新江天懸は嫌な気分になってしまう。
（俺は母親が嫌いで、好きだ。嫌われているし、好かれてもいる）
　寝子高１年の天懸の母は35歳。日本人とどこかのハーフで、金髪に茶色の目をした女性だった。
　ショーウィンドウに、天懸の顔が映る。
　大人びて、鋭い目つきの自分の顔に、母の面影が重なった。
　ナンパが得意で自称成功率９９％の天懸が、年上の金髪の女だけは苦手なのは母と姉の影響だろう。
　母は水商売をしている所、後の父親と出会い、金目当てで嫁入りしたが家風に全く馴染めなかったらしい。
　感情の起伏が激しくヒステリックな母。
　自分に懐かない姉を階段から突き落とし離婚した。
　その後は関東辺りのスナックで働き、酒浸り。
「あんな女も……家も……大嫌い、大嫌いよ！」
「ああ、その眼、灰色の目……天懸、可哀想に……」
　天懸の灰色の目は、母が憎んだ姉と同じ色だった。
（何がいけなかったのか、俺は産まれてきて良かったのか）
　子供心にいい息子として振る舞わねばならないと、離婚するその時まで母に良い子としてついていった。
　しかし飲んだくれの母親を抑えるのには夜の街へ出ていかねばならず、良い子ではいられなかった。
　都心の名門私立中学で暴力不純異性交友等々……を起こし、放り込まれるように親戚の家に引き取られて。
　以来、母からの連絡はない。

　適当にぶらついていた雑貨屋で、天懸はそれを見つけた。
　写真立て位の大きさのステンドグラスのミニチュア。
　そこには色とりどりの花が描かれていた。
「……」
　なぜそれは気になったかと言われても、なんとなく、としか言いようがない。
　手に取ってそのままそれを買い、いまだに自分をよそよそしく扱う親戚の家に帰った。
　そして自分の部屋の窓辺に飾る。
　晴天の窓からの光がガラスの色を通す。
　赤、青、黄色、緑、紫……
　染め上げられた部屋。そこには灰色はない。
　母を苦しめた色はない。
「……だから、来てくれ」
　来てくれる可能性なんて、ほとんどないのは知っている。けれど。
（……まだ、迎えに来てくれねーのかな。俺は、俺はそれでも待ってるんだ）
「……なんてな」
　
　

このページにイラストを設定する