Mother's Day がやってくる｜リアクション

Mother's Day がやってくる

☆二人の母へ

「兄ちゃん、今日は何作るの？」
　エプロンをした鴻上彰尋に、小学三年生の双子の弟妹たちがソワソワしながら尋ねた。
「カレーが食べたいっていっていたから、それにサラダを一緒に作ろう。レアチーズケーキも作るよ」
「作ろう！」
「喜んでくれるかな～」
　張り切って準備する弟妹。
（かわいいな）
　彰尋は二人を微笑ましく見つめる。
　彰尋の家は母子家庭で、上に一人の兄に、弟と妹の四人兄妹だ。
　いつも忙しい母を支え、普段から家事は子供達で分担しているけれど。
　母の日はやっぱり母に喜んでもらいたい。
　とびきり美味しいカレーを作るべく、彰尋は腕を振るった。
「野菜、洗ったよー」
「よし、それじゃ切ってみよう。手は猫にして、このくらいの大きさだよ」
　真剣な表情で順番に野菜を切る弟妹がけがなどしないよう、しっかり見守る。
「よし、上手にできたな」
　褒められた弟たちは嬉しそうだ。
　
「それじゃ、花屋さんで頼んでいた花を取ってくるよ」
　料理を終えて彰尋が出かける支度をする。
「いってらっしゃい。こないだ頼んだピンクのカーネーションだね」　
「ああ」
　それは子供達みんなで用意したアレンジメント。
　花言葉は『無垢で深い愛』『美しいしぐさ』だ。
（花も好きな人だから、喜んでくれると思う。小さい頃はいつも泣いていた人だけど……笑顔がみれたらいいな）
　母さんが自分の実の母でないことを知ったのは、つい去年のことだった。
　母さんと血のつながりがある弟妹は、兄たちの母親が違うことを知らない。
　血のつながらない二人の息子を実の子と同じように扱ってくれた母さんに、彰尋はとても感謝している。
　　
　花屋に着いた彰尋はピンクのカーネーションを受け取った。
「ありがとうございます。もう一つのほうも準備しておきました」
　もう一つは、皆には内緒で彰尋個人で頼んでいたものだ。
　プリザーブドアレンジメントの赤のカーネーション。
「あの、これ、送れますか？　海外なんですが」
「はい、大丈夫ですよ」
　それは、本当の母親に対してのプレゼントだ。
　花言葉は『母への愛』そして『あなたに会いたくてたまらない』。
　実の母親が海外に住んでいることを知ったのも、２月の彰尋の誕生日の出来事だった。
　それから手紙を送ることはあるけど、まだ会ったことはない。
（プリザーブドにしてもらったのは送っても長持ちするかなって思ったからなんだけど）
　喜んでくれるだろうか。わからないけれど。
（せめて受け取ってくれたらいいな）
　そう思いながら彰尋は、ピンクのカーネーションを手に帰途についた。