フード・プレゼン・バトル　〜語れ！　好きな食べ物！〜｜リアクション

フード・プレゼン・バトル　〜語れ！　好きな食べ物！〜

５　東条あんずによるプレゼン『ハンバーグ』

「続いて二人目のプレゼンテーターです。東条あんずさん、どうぞ！」
「はいはーい！」
小学生の女の子・東条あんずが元気いっぱいに登壇すると、店内から拍手が沸き起こった。
「あんずは、ハンバーグを紹介しにきたんだぞ！」
アッシュのセミロングの髪と赤紫の瞳。小学生らしい元気な挙動。まるでお人形さんを見ているようだ。
あんずは大きな身振り手振りを交えながら、一生懸命喋り始めた。
「プレゼン？　ってなんのことか分かんないけど、ハンバーグのおいしさならうち言えるぞ!!　ハンバーグはなー！　すーっごくおいしいんだぞ!!」
『すーっごく』を、なんとか体で表現しようとピョコピョコ跳ねるあんず。
観衆の眼差しはまるで、孫の運動会を見に来た祖父母のように優しげだった。
「お肉とたまねぎと……？　あと何が入ってたか覚えてないけど、それを粘土みたいにぎゅっぎゅってして、丸くしてからぺちぺちってして、じゅーじゅーってするんだ！」
ぺちぺちとは、空気を抜いて成形していく行程のことだろう。
「そうすると、お肉からおいしい汁がじゅわーって出てくるんだ！　これが出ると、おいしいハンバーグってショーコなんだって！」
ゴクリと、どこかで喉が鳴った。
肉から出るあの汁は、どうしてこうも人を狂おしい食欲へと駆り立てるのだろう？
厨房では、時子と夏海が試食用のハンバーグを焼いていた。その匂いと音があんずのプレゼンとリンクしていて臨場感がある。
「それでね、お肉をボールみたいにぎゅーってしてるから、食べるときにおいしさがわーってきてすっごく幸せになれるんだぞー!!」
あんずは手振りで「小さいもの」が「大きいもの」へと変身するジェスチャーをしてみせた。
それは新たな発見だった。
そうか。ハンバーグを丸める作業は、いっぱいの『幸せ』を凝縮する作業でもあったのか。
だから食べた時に『幸せ』が広がる。
「あとは、誕生日の時とかは、ハンバーグの中からチーズが出てくるんだぞー！　あつあつのチーズがとろーって出てきて、おいしいんだぞー!!　ソースで好みの味にすることもできるって聞いたぞ！　うちはケチャップで作ったソースが好きなんだけど、それ以外もおいしくて好きだぞ！　和風ソースだとさっぱりと食べれるし、白いソースもいつもと違う味になっておいしいぞ！　ソースとかチーズで……アレンジ？　できるから、おとなも子どもも大好きなんだぞー!!」
そう。アレンジができるというのもハンバーグの大きな魅力だ。
和風にもなってチーズともトマトとも合う。ロコモコ丼とかハンバーグカレーとか、無限の可能性を秘めている。
こうして、あんずのなんとも可愛らしいプレゼンは終了した。

〜実食タイム〜
時田「口の中でじゅわっと広がるこの汁！　もはや果実！　温度、旨味、ソースのコクと深みが絶妙にマッチするね〜！　うまい！」
時子「はあ〜幸せです！　この瞬間のために調理を手伝ったと言っても過言ではありません。あんずちゃんも可愛かったですね……！」
結「お肉を食べるという行為が、まるで喜びとしてプログラムされているみたい。なんだか元気になってくるわ。とっても美味しい♡」
アケーチ「肉食の奥に潜む背徳感が、我々の野生を呼び起こすのです。肉の前では我々はただの動物！　獣！　ああ！　浅ましく肉に貪る快感！」

肉々しい歯ごたえ、溢れる肉汁、ソースの味——人間の野生を呼び覚ます極上の料理だった。