ほっと、できる場所｜リアクション

ほっと、できる場所

　門限ギリギリにに桜花寮に帰ってきたマリベル・ロイスは、パステルカラーの可愛らしい部屋着に着替えると、自分のベッドにぽすんと転がり込んだ。
「ふええぇ～、気持ちいい～～！」
　そのままマリベルはベッドの上をころんころんと転がると、ぐでっと全身の力を抜く。そして幸せそうに呟いた。
「うーん、やっぱこのマットは魔物やで。パパー、ママー、おおきになぁ！」

　進級前に桜花寮で行われた部屋替えで、マリベルはこの部屋に引っ越してきた。　同室の女の子も可愛らしく気のよさそうな子で、部屋替え前にあった少しの不安なんて、そんなんウチ思ってたか？！　ってくらい消し飛んでしまい、マリベルは２年生として快適なスタートを切っている。
　そしてこの部屋替えの引っ越しに当たり、両親から思いがけないプレゼントがあったのだ。その１つが、今マリベルがベッドの上に敷いている低反発マットレスだった。
　異常に気持ちいいこのマットレスを、マリベルは大いに気に入った。このマットレスのお陰でマリベルは毎晩快眠。すっきりしゃっきりと学校に通えている。ただ余りに快適なので、ベッドの上で過ごす時間が多くなり、ベッド周りが多少ごちゃっとしてきてしまっているが、まあそれは女子高生あるあるだろう。
　マリベルはおもむろに起き上がると、部屋に持ち込んでいる小さな冷蔵庫から白い液体の入った硝子ポットを取り出した。それをカップ２つに注ぐ。１つは自分用、もう１つは同室の友人に差し入れだ。友人に笑顔でカップの１つを渡すと、マリベルは自分のベッドに戻り、近くに置いてあったニャンパッドを取りながら自分のカップに口をつけた。
　この白色の飲み物は牛乳ではない。オルチャタというバレンシアではポピュラーな飲み物だ。日本ではまだ珍しいこの飲み物の材料であるチュファを、両親がマットレスと共に送ってくれたのだ。
（チュファ……タイガーナッツは少し知られてきたけど、まだまだ日本では売ってへんもんなー）
　食堂で許可を貰い、マリベルはオルチャタを手作りした。チュファを細かく砕いて水に溶かしミキサーにかける。それを丁寧に漉したら出来上がりだ。
　蜂蜜で自分好みの甘さにしてキンと冷やす。このまろやかな喉ごしと甘さがマリベルは大好きだった。

「さてさて、ニャンスタ見ようかな～♪」
　ベッドの上に置いたクッションに背中を預け、マリベルはニャンパッドを操作し始めた。
「お、『いいにゃ！』が増えてる！」
　マリベルのニャンスタグニャムにはたくさんの写真。どれも自分が素敵だな、とか嬉しいなとか思ったお気に入りの瞬間だ。それにいいにゃ！　がつくのはとても嬉しい。ネットを通してたくさんの人と楽しくお喋りしている気分になる。
「ふふー、嬉しいな」
　マリベルはニャンパッドを見ながらベッドをごろごろ。だいぶお行儀悪くなっている。

　今日はもうご飯は外で済ませた。宿題は……考えない事にして、のんびりできる夜の時間。
　マリベルはこの時間が大好きだ。ゴロゴロしながらまたカップに口をつけ、ニャンパッドを操作する。お気に入りの写真をまたアップさせたり、素敵な写真を気儘に探してみたり。
　夜が、ゆっくりと更けていく。

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