いきなり関係進展！　リア充爆発できるかな｜リアクション

いきなり関係進展！　リア充爆発できるかな

◆嫌よ嫌よはホントに嫌

　高級ホテルのスイートルーム、窓の外に見える景色は真っ暗闇で見ることが出来ない。広々とした部屋の真ん中に大きなダブルベッドが鎮座している。いつの間にかそこに閉じ込められた挙句、『親睦を深めろ』と言って用意された相手は――最悪だ。
　如月蘇芳はモニターに映る女の説明を受けて表情を歪める。普段の彼にあるまじきそれに、隣にいた天宮城因はにっこりと笑って言った。

「すおーさん、そんなに醜い顔しないでくれますかぁ？」

　フリルとリボンで彩られた甘やかで可愛らしい外見とは裏腹な、女性にしては落ち着いた声。因は露骨に苛々としている蘇芳を煽っては、嫌がる反応を楽しんでいる。

「ただでさえ見苦しい顔がよけい見苦しくなりますからぁ」
「性別を偽って女装している君には言われたくないなあ。見苦しいのはどっちかな？」

　睨み合う二人の前、テレビのモニターに映るゆかりがぴりぴりとした空気を壊した。

『ひゅー、一触即発！　って感じですね。ですがご安心を。ゼロは何倍してもゼロですから』

　ステレオで聞こえてくる毒舌に溜息を吐きつつ、蘇芳は画面に映る女のことも睨みつける。ゆかりは飄々と彼の言葉をかわして、彼を更に苛立たせた。

「大体、どうしてよりによって相手が因君なのかな。俺には一応彼女がいるのになあ」
『彼女……そうですか。それは悪い事をしました。本当に大切な彼女なら、ですけど』
「嫌な言い方をするね」

　蘇芳は自らの雪のように白い銀髪に触れつつ、唇を尖らせる。本当はとっかえひっかえ、大して執着はしていない相手だが、それを正直に言ってしまう程、蘇芳は愚かではない。また溜息を吐いて、口を開く。

「大切に思ってるんだけどなあ」
『ええ？　ほんとですかぁ？』

　ゆかりの言葉が重ねられると、因はとうとう堪えきれなくなって笑い出した。蘇芳は先程まで作っていた物憂げな表情を崩して、にっこりと微笑む。

「因君はなんで笑ってるのかな？」
「だってぇ、可笑しいんですもん」

　因はふうと息を吐いて笑うのを止め、こう言った。

「まあ、すおーさんはそろそろ因の可愛さを認めるべきだと思いますしぃ……いい機会ですよねっ」

　受けた挑発に蘇芳は肩を竦める。因は逃げた視線を捕まえて、にまにまと桃色の瞳を三日月にして彼の様子を伺っていた。蘇芳はあえて爽やかに返す。

「全く、因君にはいい加減自分の可愛くなさを自覚してもらいたいな」

　ふーん。因は蘇芳の様子にまたふふりと笑って、弾んだ声で毒を吐いた。

「ま、すおーさんじゃ因を落とすなんて到底ムリですしぃ……身の程を弁えるのはいいコトだと思いますよっ」

　ただでさえ冷えていた温度がまた下がる。しんと静まり返った部屋で、蘇芳は取っていた距離を詰めた。至近距離で顔を近づけてくる蘇芳に因は引きながら、じりじりと後ずさる。

「……面白くない冗談だね」
「本当のことじゃないですかぁ」
「この俺が因君程度、落とせないわけがないでしょ？」

　かつり、因の踵が何かに当たった。背にぴったりと、壁の感触がする。しまったと思ってももう遅く、ひっと声を上げた因の横を、蘇芳の手が塞ぐ。

『出たー！　壁ドン！　……っと、これから私は空気を読んで、お口チャックです。ではまた！』

　緊張感を壊す底抜けに明るい声も、砂嵐の後に消え去った。部屋には蘇芳と因の二人きり。嫌悪感が込み上げる。因は蘇芳を睨みながらも、スタッフの到着を祈った。