深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　興奮と熱気冷めやらぬスタジアムを離れ、町並みのもっとも高い場所、家々の屋根をぴょん、ぴょんと渡って行く。七音侑は一足早く帰宅の途についていた。ユニークな仮装で走っていた侑、途中でじれてカボチャ頭を外してぶん投げてしまったのだ。せっかく第二クエストまで達成していたというのに、まさかの失格。失った頭をかぶりなおし、相も変わらずぐらぐら、ゆらゆらとさせながら、ろっこん『エアホッパー』の力を発揮して、空中散歩を楽しんでいた。
「はー！　ゴールできなかったけどそれはそれでいいにー！　楽しかったし、うどんやお菓子、おなかいっぱいたべたからに♪」
不思議なカボチャ娘は、満足げに空を渡って寮へと戻っていく。

　ずいぶん遅いゴールになってしまったけれど、満足だった。新井米太郎は精一杯首をひねって、最後まで一緒にレースを共にできたパートナーを見上げる。
「先輩、お疲れさまでした」
霧切翠子は米太郎の背中で縮こまっていた。背負われたまま、米太郎の肩をぎゅっとつかんでいる。
「あ、まだ足痛いかな……」
「ううん……こー君、ごめんね。準備体操しっかりしてたのに……」
翠子はスタジアムまであともう少しと言うところで、足をくじいてしまっていた。すぐに米太郎が応急処置をし、ゴールまで背負って運んだ。そこそこの順位で完走もできたし、二つのクエストもうまくいった。楽しい夜になるはずだった。
「私が転んだりしなければ……」
「そんなことない！」
「順位とか入賞とか関係ないよ。霧桐先輩と一緒にゴールできたんだから、これでいいんだよ」
「こー君……」
「僕だけ先に行ってなんて、先輩ひどいよ。一緒に走ろうって決めたんだ。痛がってる先輩を置いていけるわけないじゃないか！」
「うん。ごめんね。こー君、ごめん」
「謝らないで。きょうはすっごく楽しかった。先輩も楽しんでくれたんならいいんだ」
翠子は「私も楽しかったよ」と微笑んでくれた。米太郎には、それはどんな賞よりも尊いく代えがたいものだった。ぎゅっと背に体を預ける翠子の胸元の柔らかさにどぎまぎしながら答えたり、男らしさを立派に発揮したけれども未だに女装姿のままだったり。ちょっと締まらない今宵だけのヒーローは、彼だけのヒロインを抱えて帰途に着いた。

　宮祀智瑜は消え行く星を見上げていた。もう少しすれば、夜が明ける。織姫と彦星はまた離れ離れだ。
「おばあちゃんのお茶、こんな夜中に遅く飲むなんて初めてだったな」
給水所でのんびり飲んだ、なじみのお茶の味。初めて食べた、サンマ入りうどんはイベント用のゲテモノなどではなく、しっかりおいしかったこと。おだしの利いた熱々のうどん汁は、飲み干すのが大変なくらい熱かったけれど、他の選手とふうふう言いながら食べたこと。
『宮祀智瑜様マラソン完走点 0点仮装芸術点 80点クエスト達成点 10点』
スコアシートをじっと見る。マラソンの得点は十位までにしか入らないから、点がないのは仕方なかった。智瑜の織姫の仮装は、ほかの誰とも重複することがなかったため、思った以上の高得点を得られた。
「いったいいつの間に審査されてたのかな？　新聞部の車は走ってたけど……」
片時も離すことのなかった彦星人形を見下ろす。
「ね？　お疲れさま、彦星。先生は先生でも津止先生だったね」
ひょっとして桐島先生に遭えたら、なんて思っていたけれど。それはかなわなかった。
「でも、完走できたし、家に帰っておじいちゃんたちに報告しなきゃ。きっと、応援してくれたおかげだから」
智瑜はちょっと残念そうにして、それからくすりと微笑んだ。

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