深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

「よ。待ってたぜ」
　高梨彩葉の信頼に応え、彼女を後にして一心に走ってきた志波拓郎をスタジアム前で迎えたのは兄だった。ゴールの喝采、まぶしいスタジアムの照明を背に受けて、志波武道は拓郎を待っていたのだ。
「……兄貴」
「途中リタイアで走れなかったトライアスロンの決着……今、ここでつけようぜ」
拓郎は兄の瞳に、隠されてきた闘志を見た。
武道は答えのない拓郎をじっと見つめる。寡黙な拓郎は、今も武道の気持ちを想像し、理解しようとし、慎重に言葉を選ぼうとしているのだろう。弟を守り、負傷してリタイアしたそのことに後悔はない。だが、武道は拓郎との勝負をあきらめたわけではなかった。
（それとこれとは別問題だ。だから決着をつけよう。……俺の弟なら、わかるよな？　拓郎）
伊達眼鏡を外した兄は、弟とよく似ていた。
「……わかった」
拓郎は兄の隣に並ぶ。二人は短距離走のクラウチング・スタートの姿勢を取る。兄弟の横を次々とランナーが追い抜いていった。もう入賞者のゴールは完了しているだろう。だが、彼らにとってそんなことはどうでもよかった。今、これから挑む400メートルの勝負。それだけがすべてだった。
「位置について」
「用意……」
一秒後、武道と拓郎は風になって飛び出した。走る、走る。周りも何も見えない、二人だけの勝負の世界で。片や宇宙世紀を生きるイケメン未来軍人、片や厨二病発症必須ファンタジー漫画の主人公。ありえないはずのキャラクターのコラボレーションが実現するレースを、多くの人々が見守っていた。
（兄貴との勝負、受けて立ったからには負けられない！）
（短距離では分が悪いが、持久力なら負けない！）