深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　海賊シグレのゴールから間をおかずして、どたばたと二人の少年少女が駆け込んできた。少年は騎士、少女は漆黒の忍者の扮装をしている。謀ったようにぴったりと横並び。どちらもまったく譲る様子はなく、必死の形相で走っていた。
「卑怯だぞ忍者はさすがきたない！　うどんでお代わり強要とかマジでかなぐり捨てんぞ？」
騎士の仮装をしている内藤武諭が少女に怒鳴る。
「何よ。結局食べてたでしょ？」
言い返す島野夏帆。口も走るスピードも一歩も退かない。うどんステージでは勝手に武諭の分のお代わりを注文すると言う妨害工作に出たが、このナイト、そんな程度のことでは沈まないのだった。
「お前それは遠まわしに俺のすごさを認めてしまっているのか？」
「違うわよ！　とにかく武諭にだけは負けないから」
乙女にも忍者にもあるまじき、いーっ、という挑発の表情を見せた夏帆の顔は、長いマフラーに覆われ見えなくなった。風にたなびく黒い布が再び彼女の顔を垣間見せた時、そこには忍者のコスプレをした少女ではなく、真剣勝負に挑むライバルの顔があった。目線で合図して、飛び出す。空蝉のごとき黒い残像を残して、夏帆は一瞬武諭の視界から脱した。
「そうか……ならば俺も、全力でやらせてもらう！」
白い甲冑の重さも、動きを阻害するガントレットの不自由さも、彼を止められはしない。武諭は夏帆を追う。ただ、勝つために。
「ぬぁあああああああ！」
「負けるもんですかああああ！」
　ゴールのラインを先に飛び越えたのは、黒き疾風、夏帆だった。コンマ数秒遅れて武諭が続く。二人は浜に打ち上げられた漂流者のようにばたばたと折り重なって倒れた。
「はぁっ、はぁっ……見なさい、夏帆ちゃんの実力！」
「ぜぇっ、ぜぇっ……おのれェ忍者め……だが勝負は正々堂々だった、な……」
スタッフに抱えられるようにして退場する夏帆と武諭の顔には、満足げな笑みが浮かんでいた。