深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　千鳥雅人は第三チェックポイントで待機していた。ここでは折り紙で鶴を十羽だけ折る、ごく簡単なクエストが行われる。雅人はここの係員として働いていた。仮装はしていない。

ひょいと仮説会場から顔を出してみる。さすが国際色豊かな寝子島、外国人と思しきランナーもちらほら見かける。
「そうだ、外国の人にはわかんないかもな」
雅人は大き目の紙で千羽鶴を折り始める。折る途中、完成途上の鶴から完成品までを並べ、番号を振ってみた。
「見本があれば大丈夫だよね。それにしても……あふぅ……眠いなぁ」
いつもならもうとっくに寝ている時間だ。イベントの熱気も、どうやら彼の眠気を払ってはくれないようだ。雅人は持参の水筒からコーヒーを注いで口に運んだ。すっきりした苦味が眠気まみれの頭を少しだけはっきりさせてくれる。まぶたの下がった雅人に、他の係員が話しかけて来た。
「千鳥さん。眠そうですね？」
「あーうん。でも平気……そうだ、俺も鶴を折って待ってようかなー」
「それいいですね！　みんなで折って待ちましょう！」
「よーし、じゃあアレンジ折鶴大会しようー。誰が一番すごい鶴を折れるか競争だよー」
ランナーが来るまでの間の眠気覚ましと、係員同士の交流を兼ねて、アレンジ＆オリジナル折鶴作成大会が始まった。手先を動かし、他人と話していると雅人の眠気は少しずつ醒めていく。

　二羽が手をつないでいるようにつながった変わり折り、頭が複数ある怪物鶴、孔雀の尾のように尾を華麗に広げた鶴……。力作が次々と誕生する。
「うーん、みんななかなかやるなー……よし、俺は脚をつけよう」
折りあがった折鶴の尾の部分に切れ込みを入れ、下に曲げる。鶴のようなすらりとした足をイメージして作ってみた雅人のアレンジ鶴は、大きくがに股に足を広げた不気味な姿だった。
「ぷっ……千鳥さんの、なんですかそれ……あはは、あははは！」
女子係員たちが深夜の上がり気味のテンションで大笑いする。
「あーうん……ちょっとアンバランスになったかも？　腕もつければいいよね」
羽にも切り込みを入れて、腕を上げたポーズにする。
「ここまで来ると何か持たせたくなるよね、武器を持たせて……装甲もつけちゃってー！」
雅人は別な紙で器用に追加パーツを折り始める。眠気はどこへやら、雅人は新たな使命に夢中になっていた。
「で、できた！　フルアーマー鶴！」
優美な鶴の姿をミニマルに再現した、伝統的な折鶴の姿はもうどこにもない。そこには巨大な武器を携え、大きな肩装甲とスカートを身に着けた、とてつもなく未来的なフォルムの鶴が立っていた。
「も、もうダメ……ひぃ」
斬新過ぎる鶴の姿に耐え切れず、係員は机につっぷしてひきつけるように笑っている。創造主の雅人は、そのできばえに感じ入っていた。ちょうどそこに、ランナーが入ってくる。
「来たね、ここで鶴を折って行ってね！　はい、これが見本！」
どんと目の前に置かれたのはフルアーマー鶴。
「これですか。さすがはクエスト、並大抵の鶴ではいけないのですね」
クエストに挑むランナー、森蓮は、雅人の冗談とも本気ともつかない話を真正面から受け止め、念入りにフルアーマー鶴の構造を観察し、折り始めるのだった。