＜月華＞恋ノ紅ノ瞬キノ　―呪皇龍愛憐―｜リアクション

＜月華＞恋ノ紅ノ瞬キノ　―呪皇龍愛憐―

「まず、白虹」
「私、かい？」
　白虹が静かに問いかけると、夏夜はきっ、と彼の目を見て問う。
「君、もしかして『自分が死んででも救う』とか『自分だけ犠牲になればいい』とか思ってないだろうな……？」
「……」
　夏夜は黙り込む白虹に対し、
（僕の大事な片割れもそういう所あるから、なおさら苛っとくるんだよね）
　と内心で付け加え……、しっかりと彼の目を見続けた。
「言っておくけど、君が死んだ結果が、この現状なんだよ」
「……わかっている。けれど」
「本当に、わかっているのです？」
　夏夜の真剣な眼差しに耐えられず、目を伏せる白虹。
　そこに噛み付いたのは、美咲紀だった。彼女は僅かに興奮しているのか、朱雀特有の赤い翼からふるり、と火の粉が舞った。
「愛憐さんのウダウダ超後ろ向きな気持ちにも色々と思う所はありますが、白虹さんにも一言いいたいのです」
　美咲紀はふぅ、と一息吐くと真剣な眼差しで自分を見る白虹に気づいた。彼女は１つ頷くと、小さく微笑む。

「優しい殿方は、素敵ですよ。でも、時としてそれが優柔不断になるのです」

「……っ！」
　白虹は、その一言に何も言えず息を詰まらせる。
「愛憐さんみたくグタグタ考え巡りまくりのタイプには、キッパリと言ってやった方がイイ事もあるのですよ」

　―― 世界を巻き込む怨霊はキライだと。

「貴女こそ、何も解ってないくせにっ！」
「藍音！」
　愛憐がすぐさま手をかざし、強風を起こす。白虹が止めようとし、咄嗟に陽太は美咲紀を庇って結界を張ろうとしたが美咲紀はそれを制止し、あえて強風を受けた。冷たく、悲しみに苛まれそうになる風の力を、燃える心で制した美咲紀は指をむけ、レーザーのような炎を愛憐に飛ばす。

「……っ！　待て！」

　それを防いだのは、遥斗だった。彼は素早く愛憐の前に立ち、結界を張る。澄んだ音を立てて霧散する炎を見、美咲紀は内心で首を傾げる。だが、考え直して白虹を見つめた。
「中途半端な同情など不要なのです。ダメな事は、きちんと駄目なのだと、叱らねばなのです！」
　語気を強め、白虹に叱咤する勢いで告げる美咲紀。その勢いに白虹はたじろいだ。
「確かに、そうだねぇ……」
　うんうんと頷いた陽太は、白虹と愛憐の顔を見、つとめて穏やかな表情で向き合おうと胸に手を置き深呼吸。そして、すっ、と白虹に向けて
「白虹さん、さっきから自分のせいだから自分を壊してほしいと言ってるけど、愛憐……いや、藍音さんがそんな事できないって多分よくわかってないでしょう？」
　その時、何かが音も無く遮断されたような気がした。陽太が『愛憐』を元の名『藍音』と言った瞬間から。陽太もそれを気にしつつも白虹へと言葉を重ねる。
「彼女はどんなにあなたを恨んでも、あなたの命を奪えなかったんですよ？　今だって貴方と溶け合うのを望んでるし。自害したのも、どんなに憎んでもあなたを手にかける事はできないって表れだと、おれは思う」

　――壊してほしいだなんてそりゃ「そうじゃない！」って怒りますよ。

　陽太は、穏やかに、努めて穏やかにそう言った。その心算だった。しかし、纏う気には水の強い力が混じっており、僅かな畏怖を白虹は覚えていた。
「白虹が恋愛感情に鈍いというのは、そういう気質なのだろうが……鈍いにも程があるな」
　彼にも色々事情があるのかもしれない、と思いながらも遥斗が言葉を添える。白虹は何も言い返せないのだろう。先ほどから何も言えずにいた。

「藍音さん」
「違う！　私は、あいれ」
「藍音さん」
　陽太は愛憐を尚も本来の名前で呼ぶ。否定しようとする彼女に、悲しげな眼差しを向けて。