喫茶「セピア」営業日誌：歩き始めた｜リアクション

喫茶「セピア」営業日誌：歩き始めた

◆　続いて、ご注文を（あんみつ編）

　アケーチ・タッマーキと千堂結が親しくなったきっかけには、『セピア』での助っ人を終え、悠弥からふるまわれた「あんみつ」がある。ふたりとも、あんみつが好きで、一緒に食べているうちに、すっかり意気投合したのだ。
　けれども、実をいうのなら、アケーチはそれよりも前――助っ人として、ともにチラシ配りをしているときから、結のことが気にかかっていた。おとなしく愛らしい少女。ただ、その笑みには影が見え隠れする。微笑みの中に影を秘め、それでもなお、チラシ配りをがんばる健気な結の姿に、アケーチの保護欲はひどく刺激されたのだ。

　この日、あんみつを食べるために『セピア』で待ち合わせていたふたりは、いくらか客の入っている店内を見渡し、顔を見合わせて笑った。
「ふふふ。あれから、野の花々も少しばかり装いを変えましたが、どうやら『セピア』にも、確かな変化があったようですね」
「そうですね。私も、ちゃんと力になれていたみたいで、本当によかったです」
　着いたテーブル席で、アケーチと結は笑みを交わし合う。すると、そこへ悠弥と依菜里が姿を現した。
「これはこれは。悠弥さん、依菜里さん、こんにちは。お店のほうはよろしいのですか？　ふふ」
「ええ。お二人がいらっしゃったと綾花さんに教えていただきましたので、少々ご挨拶に」
「今は接客はシグレがやってて、調理はアヤカがやってくれてるの」
　当然、それらはアケーチや結にも覚えのある名前だ。「そうでしたか」と、アケーチは目を細める。
「もし、お忙しいときなどは、いつでもお手伝いにうかがいますので」
　つられるように、悠弥と依菜里の顔にも笑みが広がった。
「ありがとうございます」
　と、悠弥が言った。
「僕たちは一度これで失礼しますが、ご注文はどうされますか？　もしも、お決まりでしたら――」
　そう悠弥が続けたところで、アケーチと結は再び顔を見合わせる。注文なら、とっくに決まっていた。

　――あんみつを、ふたつ。

　声をそろえて告げた二人に、悠弥は少し目を瞬かせ、依菜里は「なかよしだね」と楽しそうに笑った。

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