【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅｜リアクション

【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅

●３日目　正午　レストラン『Ｒоｙａｌ　Ｍｅоｗ』
　神戸牛は、世界的に有名なブランド牛肉だ。
　かつて神戸の港に立ち寄った海外の人間が、偶然食べた地元の牛肉のあまりの美味しさに感動し、美食家の間にその名が広まっていったのが始まりと言われる。
　今や世界中のセレブから愛され、各国の首脳や要人を招いての晩餐会などにも度々登場すると言われる神戸牛。白浜渚たちが食べるのは、そんな牛肉だった。

　渚が案内された席は、窓に面したテーブル席だった。
　白を基調とした店内の設えは、どれもお洒落で洗練されている。木製の椅子は磨き上げられて艶やかに光り、テーブルクロスは窓から差し込む光を吸い込むほどに真っ白だ。
「神戸牛料理、初めて食べるなぁ。どんな感じなんだろー」
　向かいの席では呉井陽太が神戸牛の味わいにあれこれと想像を遊ばせていた。いっぽう、はす向かいに座る桐野正也は、メニュー片手にスマホを弄るのに忙しい。恐らく、武道と望月に写真つきのメールでも送るつもりだろう。

　程なくして、注文した料理が運ばれてきた。
　まずは渚である。
　彼女の料理は、脂肪の少ないヒレ肉を惜しげなく使ったミディアムレアのステーキだった。
「わあ……」
　渚はそれだけ言うと、参考書のように分厚いヒレステーキをうやうやしく切り分けた。
　普通の牛肉はナイフで切るのに力が必要だが、このステーキはまるで違う。きめの細かい赤身の肉に、すんなりと刃が通っていく。
「これが神戸牛ですか、では早速」
　渚は小さな欠片を恐る恐る口に運んだ。
（お、美味しい）
　そして、しばし言葉を忘れる。
　この肉の美味しさを表現する言葉が、なかなか出てこない。
（これならいくらでも食べられちゃう気がします。けど、食べ過ぎたら体重が増えますし、自重しなければ）
　そんな渚の意に反するように、ナイフとフォークを動かす手は先ほどから止まらない。
　美味しくてどんどん食べてしまいたい。
「どうしましょ、どうしましょ」
　嬉しい悲鳴をあげる渚の向かいでは、正也が料理をスマホで撮影していた。
「武道め、楽しそうなメール送ってきやがって……こっちもお返しに送ってやんぜ！」
　彼が注文したのは、渚と同じステーキである。
　ただしこちらは、ヒレではなくリブロースだ。ヒレに比べてサシが入り、風味も豊か。もっとも脂の量も多いのだが、そこは正也のことだ。１日どころか半日もあれば、カロリーは全て消費してしまうだろう。
「『武道くん元気？　俺はこれから昼飯でーす』……と」
　肉をバックに超ドヤ顔で写メを送る正也。
　いっぽう亮太は、モモ肉のステーキを満悦の笑みで頬張っていた。
　丁寧な熟成を経た赤身の肉は、噛みしめるほどに、肉汁に乗って旨みがにじみ出てくる。
「うめーな……」
　ぽつりと呟く亮太の言葉に、渚と正也も無言で首肯する。
　言葉はいらない。今はただ、この至福のときを少しでも長く味わっていたい――。

　彼らが滞在したのは、時間にして６０分程度だった。
　だが、彼らには何日何月にも感じられる最高の時間だった。
　忘れられない思い出の１ページ。
　神戸の旅は、まだ始まったばかりだ。