【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅｜リアクション

【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅

●０日目　深夜　夜行バス内
　京都行きの観光バスが東京を出発した。
　搭乗者は、ダイスでハズレの目を出した生徒たち。前の席に添乗した教師数名の『あまり騒ぐんじゃないぞ』という視線などどこ吹く風で、皆はしゃぎにはしゃいでいる。
　３泊４日の旅で彼らが回るのは、京都と神戸。いずれも観光都市として知られた風光明媚な土地である。どこの名所を誰と回ろうか、お土産は何を買って帰ろうか……皆、スマホやニャインを使い、クラスの仲間と連絡を取り合っていた。

　そんな中、所在なさげにきょろきょろと辺りを伺う少女がひとり。狗民きとりである。
（やっぱり、『本体さん』持ってくればよかったかなぁ）
　陽気で活発な彼女は、学校を出発してからというもの、まるで元気がない。というのも、彼女が普段被っている犬耳帽子の『本体さん』を置いてきてしまったからだ。
（本体さんがいれば、わちしも「いぬみん」として、とってもFriendlyになれるのに）
　きとりの周りでは、スマホを手にしたクラスメートたちが、窓に映る夜景を撮影していた。ねこったーかブログにでも載せるつもりなのだろうか。
　今更帽子を取りにも戻れず、かといってクラスメートの輪に加わるふんぎりもつかない。きとりが諦めて時間つぶしの本を読み始めてしばらくすると、バスは早くも渋滞に巻き込まれてしまった。
　窓からのぞく景色は、真っ暗な山ばかり。インターチェンジはまだまだ先になりそうだ。

　数時間後。
「ふぁ……」
　本を読み終えたきとりは、スマホの電源を入れた。もう午前０時を回っていた。
　既に出発から数時間。深夜を回り、どこまで行っても闇一色の景色に、皆の口数もさすがに少なくなる。
「どうしよう、目が冴えちゃったなぁ」
　きとりが辺りを見回すと、クラスメートたちも各自勝手に時間を潰しているようだった。
　スマホのアプリで遊ぶ者、京都の行き先をチェックしなおす者、色々だ。
「すう……ムニャ……もう食べられないのぉ……」
　席にもたれて寝息を立てているのは結城日和だ。
　先ほどダイスで『昼食：ニャクド』の目を出した彼女は、運の悪い時は寝るに限るとばかり、さっさとふて寝を決め込んでいた。
　とはいえ、ここは安い夜行バス。シートの中に折り畳んだ体は随分と窮屈そうだった。明日はきっと体が痛いことだろう。

　バスが滋賀県に入った頃、山の向こうから太陽が昇り始めた。
　予定ならばあと２時間程度で着くはずだが、高速道路は相変わらずの大渋滞。
　代わり映えしない山の景色をぼんやり見つめながら、北里雅樹は小さくため息をついた。
（昨日は結局、一睡もできなかったな）
　せめて昼はいい食事になるようにと、願いをこめてダイスを握る。いい目が出れば、この渋滞も少しは我慢できるというものだ。
（悪い目が出たら？　大丈夫。ギャンブルに勝つ奴は、負けた時の事なんて考えないんだ）
　膝の上にパンフレットを広げ、即席の台を作ると、雅樹は運命のダイスを振った。
　出た目は、５。
「『ニャクドナルド』……だと……」
　雅樹はシートに崩れ落ちた。
　もはや精根尽き果てて、ダイスの理不尽に怒る気力も湧きそうにない。
「ああ、なんて幸先の悪いスタートなんだ」
　体中の力が抜けたおかげか、程なくして雅樹はすやすやと寝息を立て始めた。
　山の稜線から顔を見せた朝日が、生徒たちの寝顔をそっと照らす。

　一行のバスが現地に到着したのは、昼過ぎのことだった。

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