【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅｜リアクション

【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅

●３日目　夜　カプセルホテル『神戸ブライアント』
「へえ。本当にカプセルになってるんだねえ。面白いなあ」
　荷物を預けたロッカーを施錠すると、日和はカプセルホテルのベッドに潜り込んだ。
　ケージ状に仕切られた二段ベッドの中は、テレビあり、コンセントに目覚まし時計あり、小さな書斎までついており、なかなかに快適だ。
　１階には大浴場も備えてあり、サウナも完備してあるらしい。さすがに以前にも泊まったことのある有馬の湯とは比べるべくもないが、日和にとってはこちらの方が新鮮に見える。
「さて、早いところ汗を流して来るとしようかな」
　いよいよ明日は修学旅行の最終日。街中の観光を味わい尽くすためにも、夜更かしは禁物だ。日和は室内着を手に取ると、ホテルの大浴場へと向かった。

「ふふふ……修学旅行も明日が最終日ですね……」
　添木牡丹の念仏のような声が聞こえてきた。
「宿泊施設は二つともオンボロ民宿……そして今日もこうしてカプセルホテル……どこの出張サラリーマンですかとツッコみたくなるラインナップですがそれはそれ、旅の醍醐味とも言えますから……」
　ペットショップのケージを連想させる個室で仰向けに寝転びながら、瞳孔の開いた目でチープなクリーム色の天井を凝視する牡丹。正直なところ、牡丹の精神が追い詰められていることは否定できなかった。
　宿が安いからではない。同棲している牡丹の恋人が隣にいないからだ。
（あのキュートわんこな私の癒しの彼が……居ないだけで折角の旅行も楽しめない……）
　牡丹は今、自分にとって恋人がいかに大切かを痛感していた。寂しさのあまり気が狂いそうだった牡丹は、丸めたシーツを恋人に見立て、絞め潰さんばかりに全身で抱きしめていた。こうすれば、一人の孤独も少しは耐えられる。
　明日は修学旅行の最終日。牡丹は１分１秒でも早く寝子島に帰りたかった。クラスメートの皆は怒るだろうが、こんな孤独があと１日でも長く続いたら、一人で勝手に帰ってしまったかもしれない。
「帰ったらいっぱいのお土産を持って、同棲してる彼が待つ部屋に帰りましょう」
　脳裏に恋人の笑顔を思い描きながら、牡丹は明かりを消して毛布を被った。
　そして決める。島に帰ったら、ここ数日の寂しさをイチャイチャしながら埋めてもらおう。自分の居る場所は、彼の元以外にないのだから――。

　いっぽう男性専用のフロアでは、源一が低い天井を眺めながら呟いた。
「ふむ。やはり、なかなか窮屈だな」
　彼は顔つきや雰囲気だけではない、体格も高校生離れした少年である。
　教室の入口ですら、うっかりすれば頭をぶつけてしまう身長が、こんな時は恨めしい。
　仰向け姿勢のまま丸くもなれず、寝返りをうつだけでも一苦労だ。
「これも鍛錬の一環と思えば……いや無理がある……か」
　民宿のボロさはどうという事もなかったが、このカプセルはきつい。棺桶の中にでも入っているようだ。
　しかし、悩んだところで体が縮むわけではない。カプセルが大きくなる訳でもない。仕方なく源一は、大きく深呼吸をして、小声で羊を数え始めた。
「一匹、二匹……」
　声はやがて小さくなり、寝息に変わった。

　いよいよ、明日は最終日。
　神戸の１日を、皆どうやって過ごすのだろうか。