【三寮祭】桜花寮、お宝探しにゃー！｜リアクション

【三寮祭】桜花寮、お宝探しにゃー！

●桜花寮　青に一番近い場所で

『中々入れないって定番の屋上は行っておかなきゃね』

　そんな鶴の一声ならぬ白猫の誘惑声で、花風冴来は寮の屋上に足を踏み入れ空を見上げた。
　すっかり暖かくなった春風が、陽射し色の長い髪をそよそよ揺らすのを、薄羽白露は目を細め見つめてから伸びをする。

「景色もいいし、今日は天気もいいから絶好の休憩スポットだ」
「そういえば猫って高い所が好きよね」
「お嬢さん高い所は苦手だったかい？」
「いいえ。私も好きだわ。高い場所は空が近いし、辺りの景色もよく見えるから」
「良かった、イイ猫仲間と一緒で」

　嬉しそうに告げては、設置してあるベンチに自然と腰かけた。

「……ここ、日当たりが良くていると眠くなってくる……」
「良いお天気だし、折角だからお昼寝していこうか」
「ここで寝ていたら叱られちゃわないかな……？」
「日向で眠ってしまうのは猫の定めだ」
「ふふ、そうね。今は猫だし、多少好き勝手していても多めに見てもらえるかしら」

　悪戯っ子の色を浮かべた瞳同士が、目を合わせれば猫のように三日月型に細めたり。

「床もベンチも固いし、お嬢さんが良ければ僕の膝を使うかい？」
「そしたら、白露さん寝れなくない？」
「おや、知らないのかい。猫はどんな姿勢でも眠れるんだよ。僕ものんびりお昼寝させてもらうさ」
「……なら、お言葉に甘えてお膝貸して貰おうかな」

　膝枕って、女の子の側がするものの気がするけど……と僅か逡巡するも、ぽかぽか温かそうな白露の膝元を見ていたら、吸い寄せられるように冴来は頭を預けることにした。

「白露さん、足、痺れたら遠慮なく起こしてね？」
「分かった。正直羽根のように軽いけれどね」

　そんなこと言って、と吐息で笑えば、心ごと委ねるように瞼を閉じた冴来から、程なく小さな寝息が聞こえてくる。
　――　陽光受けた無防備な形貌は、化け物どころか天の御使いのようだけれど。
　自身の膝に広がる金の髪を一房、くるりと指でいじってから。白露は微笑浮かべたままその寝顔を見つめた。
　この儚さ纏う少女から、時折出る言葉の欠片たちの中に、発している彼女自身が傷ついてしまいそうな欠片が混じるのを、たびたび感じてはいる。
　だからといって、どうするわけでもない。
　――　お嬢さんがお嬢さんらしくあれば、うん、僕は楽しいし。
　のんびり寝顔を見ていたら、冴来が目を閉じたままころりと上を向く。

「……白露さん優しい。だあいすき」
「おっと。夢路に置いていかれそうだ」

　むにゃむにゃと眠ったままの冴来から零れた言の葉を拾えば、ちょっと待って追いつくから直接言ってー、なんて笑いの吐息と共に背もたれへ体重をかけ。
　すぐに寝息の音は二つになった。
　春の温もりと人肌の温もりに守られるように、夢を見る冴来の寝顔が、今だけそっと、幸せそうに微笑むのだった。

　そんな二人が日向ぼっこするベンチの後ろで。
　眩しそうに、楽しそうに空を見上げた少年が、程なくして眠るにゃんこに気が付けば口をぱふっと手で抑える。
　そうして今度はそうっと、優しい笑顔を残して屋上の扉を静かに閉じる音がした。