【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■軽やかに舞う
　椎井莉鳥と北里雅樹が歩く星ヶ丘寮は、完全に一つの街だった。
　オープンにされている寮生の部屋を見て回れば、互いが住む家や寮とは別物だと実感する。
「さっきの薔薇園も立派だったよなー」
　緋紅朱赫乃の所有する薔薇園など、個人所有とは思えない程の薔薇の種類と数で二人共圧倒されるばかりだった。
（雅樹が阿呆なこと言わないかヒヤヒヤしたけれど）
　でも、莉鳥も美しい薔薇の花と香りに癒されたことは事実。

　気分良く歩いていれば、二人はいつの間にか噴水広場へ。
　仮面をつけた男女が舞い踊り、軽快な音楽が周りを包む。
「噴水を見てたら……思い出しちゃったな」
「何を？」
　雅樹が真剣な表情で莉鳥を見、そして。
「ちょっと用を足してくる」
「……ご自由にどうぞ」
　かけて行く雅樹の背中を見送り、一人になった莉鳥。
（全くもう……）
　表情にはそんな気持ちは打さず、莉鳥は一人立ち尽くしていた。
　すると、他方から礼儀正しい声がかかり
「良ければ一緒に踊りませんか？」
　莉鳥が振り向けば、そこには折り目正しい騎士の姿をした凛々しい少年――サキリ・デイジーカッターの姿が。
　マスクから覗く赤い瞳は力強く、また口元は優雅に微笑んでいる。
　辺りを見回しても、雅樹の姿は見えない。
　莉鳥は、差し出されたサキリの手を取る。
「ありがとう。お願いします」
　優雅にエスコートするサキリの所作は堂に入っており、そこまでダンス等に慣れていない莉鳥にも、丁寧にリードし、共に楽しもうとしてくれているのがわかる。
（……凄い）
　高貴な振る舞いのサキリの姿に、表情は変えぬままに身を任せる莉鳥だった。

「……あれ？椎井？」
　別れた場所に戻ってきたものの、そこに莉鳥の姿はなかった。
　キョロキョロと辺りを見回せば……
「す、凄い存在感……！！」
　雅樹の瞳にオレンジブラウンの髪を持つ少女の姿が目に映る。
　
　音楽団の陽気な演奏に合わせ、元気いっぱいに舞う少女……に見える音海なぎさ。いや、今の彼は愛らしい少女『ナギ』として振る舞っている。
　曲に合わせて腕を広げ。腰をそらし。しなやかに腕を曲げ、交差させる。
　ナギが動く度に丸眼鏡に装飾された羽細工もしなやかに弧を描いていた。
（……凄い）
　雅樹は暫くナギのダンスに魅了される。
　自由な動きで、また観る者の心に焼き付くような愛らしく軽やかなダンス。踊ることを目一杯に楽しんでいことが雅樹にもわかる。
　そんなナギと、雅樹の視線が合う。
　曲に合わせステップを踏むナギは、いつの間にか雅樹の前へ。
「ねぇ、一緒に踊りましょう？」
　自然に、しかし力強く雅樹の腕を取るナギ。
「わっ、わわっ！」
　おっとっと、と引っ張り出される形で雅樹はナギの目の前へ。
　ナギが自身もステップを踏みながら手を叩く。
「さぁ、自由に踊ってみて！」
　明るい笑顔で雅樹に手拍子を送れば
（ここで踊らなきゃ男がすたる！）
　手拍子に合わせ、見様見真似でステップを踏む雅樹。
「そう、素敵！　楽しい気持ちになってくるでしょう？」
「あ、あぁっ」
　確かに身体を動かせば、ちょっと位の嫌なことや不安なことも飛んでいきそうで。
　噴水広場の一角で手拍子が巻き起こってることにサキリと莉鳥は踊りながらも気付き。
「なんだか向こうの方も盛り上がってるようだ」
　それがまさか莉鳥の連れだとは思わず、サキリが笑みを浮かべる。
「本当ね……あら？」
　あまり驚きの感情が見えないが、内心莉鳥は驚いていた。
「もしかして、君の知り合いかい？」
「……えぇ」
　曲に合わせ、サキリはダンスの進路を雅樹の方へと変えて行き……曲が終われば。
「……あ、椎井」
　サキリの手を離れた莉鳥は、雅樹の目の前に居た。

　結局、流れで雅樹と踊ることになった莉鳥。
　正直に言えば雅樹は運動神経が良い方ではなく……
「……ッ」
「あっ、椎井ごめん！」
（これで何度目だか……）　
　何度も踏まれる足に辟易とする莉鳥だった。
（まぁ、雅樹らしいけれど）
　無表情に、そう思う莉鳥だった。