【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■華麗なるポロネーズ
　アケーチ・タッマーキはご機嫌に星ヶ丘寮を闊歩していた。
　噴水広場に近づくにつれ、豊かな旋律が耳をくすぐり。
「ふ、ふふ。仮面で眼差しを隠しながらも神秘的、かつ情熱的に踊る方々……！　美しいですね、ふふ……！」
　頬を染めハァハァと人々を眺めるアケーチ。
　その表情が仮面に隠れていなければ立派に通報案件だったであろう。
「……おや」
　情熱的なヴァイオリンの調べにアケーチは思わず足が動いた。
（素晴らしく、五感を揺すぶられます……！）
　星ヶ丘寮で舞踏曲を担う音楽団にて、一際目立つヴァイオリニストの姿。
　紳士服に身を包み、目元を隠すカーニバル用の仮面には蒼い羽根飾り。羽はヴァイオリンの演奏に寄り添うように、ふわふわ揺れ動いている。
（あの美しい青髪の方は……）
　寝子島の公園にて、趣味でスケッチを行うアケーチ。
　そこで描かせてもらった一人と様相が似ていることに気づく。
　いや、気づくよりも前に、アケーチは持参していたスケッチ道具を取り出し、夢中で彼の姿を描き始めていた。

（仮面で演奏なんてそうそう出来ねぇ）　
　三寮祭にさほど興味はなかったが、変わった舞台での演奏に興味を惹かれた神嶋征一郎。
　舞踏会の参加者にとって踊りやすいように気遣われた選曲でありながらも己の演奏の個性はたっぷりにヴァイオリンを演奏する。
　優雅に踊る人々が目の前を移動していくのを横目に眺めていた際、一人の男に気付いた。
（……なんだ？）
　少し離れた場所でスケッチブックを手に筆を動かす仮面の男。
　スケッチブックと自分の姿と交互に見やる姿は、明らかに征一郎をモデルに描いているのがわかる。
　あまり良い気分はしないながらも征一郎はひとまず曲に集中し。
　弾き終えると、征一郎はスケッチをする男――アケーチの前に近寄った。

「てめぇ、勝手に何描いてやが……」
　征一郎がアケーチの前に立てば、アケーチは一際嬉しそうな笑みを見せる。
「……こないだの男か？」
　寝子島で己の姿を描いた男。
「あぁ……！気づいていただけて光栄です……！仮面越しでも気づいていただけるなんて、これはやはり運命の赤い糸、いえ蒼い糸で……」
「黙りやがれ」
　呆れたような表情でアケーチの言葉を断ち切る征一郎。
「どうせ自分のこと描いてたんだろ」
　征一郎の仮面の下の視線が、見せてみろ、と伝えてくる。
「あまりの刺激に描かせていただきました……！」
　そこに描かれていたのは、ヴァイオリンを情熱的に弾く征一郎の姿。
　揺れる羽飾りの優美さ、そして仮面をつけていてもわかる、音楽を愛し、楽しむ征一郎の表情。
　そこには何のしがらみもない、解放された明るみすら感じられる。
（自分は……こんな表情で弾いてんのか）
　練習や音楽コンクールで自分が映った動画を観ることはあっても、それともまた雰囲気の違う、一瞬を切り取った絵画に征一郎は思わず息を呑んだ。
「……悪くねぇ」
「嗚呼、光栄です……！」
　恭しくお辞儀をするアケーチに、更に征一郎の言葉が降る。
「これはその礼だ、受け取れ」
　手に持っていたヴァイオリンを肩に構え、顎を添える征一郎。
　キョトンとした表情を見せるアケーチだったが、その顔は直ぐに紅潮することとなる。
　征一郎のヴァイオリンから奏でられる「華麗なるポロネーズ」
　軽やかな始まりから、徐々に艶めいていくヴァイオリンの調べはアケーチの身体を熱く震わせる。
　縦横無尽な技巧、そして繊細で蠱惑的な旋律を紡ぎ出す征一郎の姿は
（あぁ、美しい……！）
　一曲を聴き終えると、アケーチは情熱を込めて拍手を送る。
「お礼の方が素晴らしすぎますが……よかったら」
　描いたスヶッチを征一郎に渡そうとすれば、はたと気づき。
「よろしけえば、ぜひお名前を伺わせていただきたいのですが……」
　アケーチからのスケッチを受け取りつつ、征一郎は短く答えた。
「……神嶋、征一郎」
「覚えました、征一郎さん……！ぜひ、また貴方を描かせていただきたいですね、ふふ……！」
　颯爽と去りゆく征一郎の姿を、熱く見つめるアケーチだった。