風邪ひきの唄｜リアクション

風邪ひきの唄

◆夢よりも

「っくしゅ」
「だいじょうぶ？」
「うつしちゃったかな……」

　玄関でくしゃみをした鴻上彰尋の顔を、彼の弟と妹が覗き込む。特に弟は先日まで風邪をひいていたせいか、不安げだった。彰尋はそんな二人の不安を除くように笑顔を作って、何でもないように送り出す。

「ううん、俺は大丈夫。いってらっしゃい」

　軽い風邪だろうと、部屋に戻る彰尋は、だんだんひどくなってくる喉の痛みと、重くなってくる身体に試しに熱を測ってみた。ずきずきと痛む頭に悩みつつ、鳴った体温計には思いのほか高い温度が表示されていた。

「今日は休もうか……」

　母も仕事だからと、彰尋は休む旨を伝え、その足で病院に向かった。
　院内は混んでいて、彰尋は長い待ち時間の間うとうととし始める。妻に付き添っている男性が彼女を支えるのを見て、彰尋はぼうっとした頭でふと、冷たかった父のことを考えた。そのままかくりと転寝する。見るのは幼いころ、風邪にかかった時の記憶。父から兄にうつさないようにと隔離されて、一人で寝かされていた時の事だ。
　あのことで母に迷惑をかけた罪悪感と、一人で寝ていて寂しかった気持ちとを同時に思い出して、彰尋は顔を顰めながら目を覚ます。ちょうど順番が来ていたので、彰尋は今、現在のことに集中した。

「……ただいま」

　帰ってきた彰尋は、そろりと家の中に入り、薬を飲んだらすぐに布団の中に倒れこんだ。布団の中、ぐったりとしたまま熱と戦っていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

「……起こしちゃった？」

　ぼんやりと目を覚ました彰尋の前には、仕事でいないはずの母の姿だった。母は彰尋に優しく声をかけては、氷を用意したり、おかゆを作ったりと面倒を見てくれている。彰尋は自分のせいでまた母に面倒をかけている、そのことに居心地が悪くなって、熱で魘される中こう言う。

「……ごめん」
「いいのよ」

　それでも母は優しく彰尋の頭を撫でるばかりか、小さな時側にいてあげられなかったことを謝った。彰尋はそれにまた申し訳ない気持ちになりながら、撫でられている。

「夜はどうしようか？」

　そう母が訊くので、彰尋は恥ずかしがりながらも答えた。

「……母さんが作ってくれたおかゆも食べたいし、あとは……」
「あとは？」

　甘えてもいいものかと計りながら、彰尋は消え入りそうな声で言う。

「……桃の缶詰が食べたい」

　それを聞いた母はにっこりと笑って、楽しみにしていてと、また彰尋の頭を撫で始めた。彰尋は、布団の温もりだとか、熱ではない何か暖かいものに包まれているような気がして、緊張が解れる。氷枕のひんやりとした感覚が、心地よかった。

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あとがき

担当マスター：六原紀伊
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風邪をひいた。そんな一日、いかがでしたでしょうか。
家族愛を感じる一日もあれば、友達が看病してくれたり……様々でしたね。
楽しんでいただける幸いです。

次回ガイドについて。
私事により1月中はペースが遅くなりますが、はじめて♡キャンペーンに合わせて１～２本出すつもりです。
そちらでもご縁がありましたら、よろしくお願いします。

それでは皆様、ご参加いただき本当にありがとうございました！

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