隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）｜リアクション

隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）

　追撃を受けながらも全員の身を挺した守りで女性は無傷だった。
　通りを走る一同に最後の分岐が見えてきた。右に曲がれば門までは一直線。各々の顔が綻ぶ。しかし、曲がった先には絶望が待ち構えていた。
　門は完全に閉じられ、その前には戦士の一団が二列横隊で控えていた。
　中央には黒いマントを羽織った人物がいる。憎悪に燃える双眸を向けてきた。
「貴様等の愚行は大罪に値する。ここで全員、斬り捨ててくれるわ！」
　行く手を阻まれ、たった今、退路も塞がれた。圧倒的な人数が一同を包囲する。
　タルトは半ば呆れたような顔で呟いた。
「普通は助けた時にワープとかできるんじゃないの？」
「救出に時間が掛かり過ぎちゃったかな」
　円は苦笑して空を見上げた。悠然と飛翔する翼竜に憧れにも似た眼差しを向ける。
　突如、軋む音がした。門前の戦士の隊列が崩れる。
「貴様等、何をしとるか！」
　指揮官の一喝でも収まらない。門に押された戦士は左右に分断された。
「これは何の騒ぎなんだ？」
　赤い甲冑の縦隊を両脇に従えた長髪の偉丈夫が街に入ってきた。隆々とした筋肉が鎧と言わんばかりの軽装であった。
　刀は握力を確かめるような動きで、再び剣を構えた。
「悪の親玉の登場か。囚われの者は俺達が絶対に助け出す！」
「俺が街の長だが、意味がわからん」
　士を目にした瞬間、長の白目に血の色が混じる。こめかみには太い静脈が浮き出た。
「青い髪か。王族に縁のある者が、何故、ここにいる？　しかも、俺が不在の時に！」
　マントを翻して男が逃げ出した。街の外ではなく、中へと向かう。
「貴様等、邪魔だ。退け、退かぬか！」
　手を振り回して突っ込んでくる。立ち塞がったのは絵梨菜であった。
「女の子をさらう悪人は超音速美脚乱舞のフルコースよ！」
　にっこりと微笑んだ直後に無数の蹴りが男に浴びせられた。一陣の風の中で翻弄される木の葉は弧を描いて吹き飛んだ。仰向けの状態で滑り、長の前で白目を剥いて止まった。
「こいつのことだ。金か、権力か。そんなところだろう」
　長が手で合図を送る。甲冑の兵士に両脇を抱えられて男は街の奥へと消えた。
「俺がいない間に迷惑を掛けたようだな」
　長が一礼したのを見て、ほとんどの者がそれに倣う。
　その中、絵梨菜はくるりと回ってウインクした。
「捕らわれのお姫様は正義の美少女怪盗エリナが頂いたよっ☆」
「おう、持っていってくれ」
　長の豪快な笑い声に送られて一同は街を後にした。

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