【星幽塔】第十三階層　『おもちゃのおしろ』と「こびと」の少年｜リアクション

【星幽塔】第十三階層　『おもちゃのおしろ』と「こびと」の少年

【かりそめの兵隊】

　その頃、玉座の間では、大広間での戦況を報告にやってきたおもちゃの兵隊の話に眉をひそめているゲオルグ・ロイターの姿があった。
「……なに？　まだ片づかないだと。たかだかガキが１０から２０人の手勢に何をやっている……！」
　ゲオルグが玉座にふんぞり返ったまま、赤い絨毯ブロックの凹凸を杖で何度も忌々しげに叩いた。
『！？！？』
　それに、おもちゃの兵隊はその場で跳び上がって震えている。
　そんな絶対的支配者と被支配者の構図を、玉座の間の騎士の像の陰から見ている者がいた。蜂に変身した高杉かようである。
（……なんかつまんねーな）
　ゲオルグとおもちゃの兵隊とのやりとりを見て、かようが抱いたのは、そんなシンプルな感想だった。
『○△■×＠：＃＄＆！』
　おもちゃの兵隊は必死に何かを主張している。死罪を言い渡された無辜の民がひたすらい赦しを乞うように。
「ええいっ！　言い訳はいいっ！　さっさと奴らをひっとらえてこい！　さもなくばこうだ！」
　次の瞬間、ゲオルグが立ち上がり、杖を高く振り上げるとおもちゃの兵隊のすぐ目の前のブロックに雷が落ちた。
『……！！』
　それにおもちゃの兵隊は飛び上がって、大広間に取って返そうとする。
　かようは、それに慌てて、その後へ続く。かようが厳重な守りの玉座の間に入ることができたのは、その兵隊の後をこっそりつけてきたからに他ならなかったからだ。
（……ゲオのまほうは結構厄介だな。それになんか床の変な模様とか、意味深な石像もあるし。あと、北東の変な色の城壁のことも、皆に伝えないと……！）
　はたして、必死の形相のおもちゃ兵隊のあとを追って、かようも大広間へと取って返していく。

　＊　＊　＊

　同じ頃。
　大広間で、ざわり、と広間を支配する空気が明らかに変わった瞬間があった。
『！！！！』
　おもちゃの兵隊達の勢いが目に見えて激しくなったのである。

「なるほど、いい覚悟だ。だが、勢いだけで俺達を倒せると思うな……！」

　新田亮は、しかし、その勢いに気圧されることなく、ひたすら自分の戦術を徹底することで、その勢いに対抗してみせていた。
　日頃のトレーニングで鍛えた体を、トマオレクッキーでさらに強化した亮の動きは、たとえ『こびと』の姿であっても、そのあたりの有象無象の兵を凌駕している。
　さらに亮は、その高い能力を、きちんと自分なりの戦術に基づいて使っている。身に纏った魔土の光でおもちゃの兵の剣や槍を土の壁で防ぎ、その隙間から石の礫をマシンガンのように撃ち続けて戦列を薙ぎ払う。
　星の力を酷使する、消耗の激しい戦い方だが星の滴を持ちこんでいるので、ちょっとやそっとでは力が尽きることはない。
　とはいえ、いくらなんでも数が多い。
　たとえどれほどの気迫の兵が攻めて来ても、その数が尽きれば恐れることはないのだが、その数が尽きる気配がなかったのだ。
『グワ！　グゴ！　グオ！　グゲエエエエエエエエエエエエエ！』
　と、曖浜鴻が騎士の光で召喚した白鳥もさすがにお疲れ気味でもう吐きそうだった。ちなみにその声はもはや完全にアヒルである。
「……だ、大丈夫か、相棒！　しっかりしろ！　しっかりしろぉおおお！」
　鴻が白鳥を背中をさするが、あまり大丈夫そうには見えない。

「ア、アヒルさん、しっかりしてください！」
　と、椿美咲紀が舞花の祈りを使って回復する。すでに彼女の中でも、白鳥はアヒル扱いになっている。
「アヒルはやらせないわ！」
　と、水上桜も美咲紀が回復する隙を突こうとするおもちゃ兵を立て続けにクロスボウで射抜いていく。
「……助かるぜ！　よし、俺も負けてらんねぇ！　絶対にお前を死なせないからな、相棒！」
　鴻もまた、傷ついた相棒を守るために、己の武器を振るって、おもちゃ兵をなぎ倒す。
　すわハーレムラノベの主人公かと思わせるモテモテのアヒ――もとい白鳥とそのヒロイン達の奮闘ぶりを、玉座の間から戻ってきた高杉かようが楽しそうに眺める。
「うん。やっぱりこういうみんなでわいわい騒ぐ方が楽しいよな」
　変身を解き、野球少年らしい快活な笑みを浮かべつつ、かようもまた蠍鉄鋼弾をぶん投げて、大広間の戦線に参加するのだった。