【星幽塔】第十三階層　『おもちゃのおしろ』と「こびと」の少年｜リアクション

【星幽塔】第十三階層　『おもちゃのおしろ』と「こびと」の少年

【こびとまほうと魔法陣】

　サキリ・デイジーカッターと同じ動揺と困惑は、他の仲間達にも広まっていた。
（……あれ、箱庭（リトルガーデン）が使えない？）
　新田樹は、あわよくば開戦と同時にゲオルグの杖をろっこんで奪い取ろうとして、その発動に失敗したことに気づいた。
（……変ね。鉄球兵士のときは、上手く行かなかったとはいえ、発動はしたのに……）
　樹は、内心の動揺をよそに平静を装いつつ、兄である新田亮の方をちらと見る。
「……兄さん。ろっこんが……」
「ああ……。やはりお前もか、樹……」
　兄妹は、短く言葉を交わし、これが単なる偶然ではないことを理解する。
「ふははっ！　気づいたようだな！　『島』から来た冒険者達よ！　貴様らが星の力とは違う不思議な能力を持っていることは聞き及んでいたっ！　だが、この玉座の間では、その力を使うことはできん。わしがこびとまほうの力で、結界を張ったからな！」
　得意げにネタばらしをするゲオルグのおかげで、わざわざ推測するまでもなく冒険者達にはろっこん未発動の理由がわかった。
（……自分からそれを言うとは。やはり馬鹿なのか……。それとも……）
　修は判断に迷ったが、それよりもまずは目の前の敵を倒すことに集中すべきだと判断しなおした。
　幸い、敵は大きいとはいえ、竜と騎兵の二体。
　それに対し、こちらはリヒトも含めて１０人以上いるのだ。
「クク。往生際が悪いぞ、ゲオルグよ。衆寡敵せず、という言葉を知っているだろう。すでに運命の輪はまわり始めている。大人しく己が敗北の定めを受け入れて降伏するがいい」
　リヒトが（何故か一番偉そうに）ゲオルグに、降伏を勧める。
　相変わらず言葉のチョイスが謎だったが、言っていることは正しかった。
　いくら竜と、しょせんはおもちゃ。
　たとえろっこんがなくとも負ける心配はない――はずだった。
　だが、
「ふふ。衆寡敵せず、か。小僧のくせに、小賢しい言い回しをするな。だが、その一点に関してだけは、わしも同意見だ」
　ゲオルグが不敵な笑みを浮かべて言ったそのとき床に描かれた魔法陣が水面のように揺れた。
「みんな！　気をつけて！　魔法陣から何か出て来る！」
　空を飛んでいたアリス・ミーティアが真っ先に気づいて、仲間に注意を呼びかける。
　その直後、揺れる魔法陣の中から無数のおもちゃの兵隊が浮かび上がってきたかと思えば、それぞれがおもちゃの武器を手に果敢に突撃を仕掛けてきた。
「……おいおい、まだ増えるのかよ。さっきのねーちゃんに青汁をもらっといてよかったぜ」
　レグルス・シェルタンがイフラーンで兵隊をばっさり斬り捨てながら、辟易とした表情で言う。
「縮身が使えないとなると、ハルバード（こいつ）だけが頼りか……。だが、あなどるなよ。武芸についても、ちょいと自信があるんでね」
　七峯亨がハルバードの先端で兵隊達の足を薙ぎ払うと、そのまま銃を奪って敵へ乱射。任侠映画のごとき荒々しいバトルスタイルを披露し、口の端に笑みを浮かべる。
「みんな、ろっこんは使えなくても星の力は使えるみたい！　力を合わせて、ゲオルグをやっつけましょう！」
　魔風の力で竜の炎を遮りながら、椿美咲紀が仲間達を鼓舞する。
　魔法陣の力で、優勢に見えた状況は、一転、窮地に転じた。
　だが、冒険者達の心は彼らの武器と同じくまだ全く折れてなどいなかった。