H･A･G･E～スキンヘッドの逆襲～｜リアクション

H･A･G･E～スキンヘッドの逆襲～

「イヤーッ！」
「うわああああ、俺の頭が！」

シーサイドタウンの駅前に、HAGEバッジと頭部を光らせた男が現れた。男は彼を揶揄った男子小学生の頭をグワシと掴み、その頭髪を奪う。

「なんと面妖な連中じゃ」

　阿鼻叫喚の中、九十九髪夜光だけは被害を免れていた。しかしそれに喜ぶことも、安堵することもない。なぜなら――夜光の頭部もまた、スキンヘッド団の面々と同じ、素晴らしい禿げ頭だったからだ。夜光はつるつるの頭部を光らせながら、九夜山へ向かう。フサフサの者への怨嗟を胸に抱きながら。

「父さん……？」

　透明は呟く。彼もまた、禿地獄と化したシーサイドタウンに通りがかった一人だった。奪われた髪を取り戻すべく団員に襲い掛かる学生や、泣いている子供の中、明は父の姿を探していた。

「むっ……少年！　何を見ている！」

　視線に気づいたスキンヘッド団の一員が、明の前に立ち塞がった。団員は明を睨んで言う。

「まさか、このハゲが珍しいとでも！？」
「いや、違います」
「じゃあ何だというんだ！」

　団員の怒声に対し、明はマイペースに返した。

「父を……探しているんだ。失踪する前、スキンヘッド団の人と話していたと聞いて」
「なんだ、同志の子か」

　団員はその言葉に険しかった顔を緩め、本部までの道を紙に書きだした。渡された地図を受け取り、明は歩き出す。その先は九夜山、スキンヘッド団の本部があるという場所だ。

「優しそうな人で良かった」

　そう口に出しながら、思い出すのは幼い日々のこと。明の父もまた、先程話したスキンヘッド団の団員に負けない、見事な禿げ頭を持っていた。カッパのようなその頭を、幼き日の明はよく指差して笑っていた。でも、父はバカにされても怒らないで、優しく笑いながら頬を描いていてくれたのだ。明はその時の父を思い、罪悪感で押しつぶされそうになる。

「知らなかった。父さん、実は傷ついていたんだ」

「おい、見ろよ……『不動の夜光』だ」
「九夜山に何の用だ……？」

　一方その頃、夜光はスキンヘッド団のアジトの前に立った。道中ひそひそと声がしたが、夜光はそれを自分の禿を嘲弄するものだと思い無視していた。アジトのライトが夜光を照らす。その眩しさに、夜光は思わず腕で瞳を隠した。

「誰だ！　くっ、何だこの光は……目が……！」
「何をした！　おのれフサフサめ！」
「待て！　儂の姿をよう見てくれ！」

　ライトに照らされることによって、より神々しい光を発する夜光の頭部。その姿、まるでブッダの如し。その光が薄れていくにつれ、スキンヘッド団の持っていた敵意が薄れる。彼らの視線は夜光の頭部に注がれていた。

「その頭……」
「あんた等の気持ちは痛いほどわかる……じゃから、儂もあんた等の仲間として協力させてくれ！！」

　すると、アジトの扉と窓が一斉に開き、中から神々しいまでの禿げ頭を持った大男が現れる。大男は両腕を広げ、口を開いた。その傍からそそくさと男が出てきて、夜光にHAGEバッジを渡す。

「そなたの入団を認めよう」
「何じゃこれは」
「これはスキンヘッド団のスローガン『Hair ahead Grow Eternal』を現したHAGEバッジだ」

　説明された夜光は、早速HAGEバッジをその胸に付けて、彼等の集会に招かれる。フサフサの者に対する怨嗟の声を上げる彼等に乗じて、夜光も胸の内にある感情を吐き出した。

「なんで卓球部に誰も入部せんのじゃあ！」

　夜光はこぶしを握り、続ける。それに団員は心底同情していた。中には涙を流す者も居る。

「やはり、儂が禿げてるからか！　結局髪フサフサの奴しかモテんのじゃあ！！」
「夜光！　お前は悪くない……悪いのは、フサフサの人間で溢れたこの世界だ！」
「フサフサを皆ハゲにしてやれ！」
「おん！」

　集会の最後に、大男が号令をすると、皆一様に片腕を上げ、

「H・A・G・E！」
「H・A・G・E！！」

　と叫ぶ。夜光もそれに倣って、

「H・A・G・E！」
「H・A・G・E！！」

　と叫んだ。

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