H･A･G･E～スキンヘッドの逆襲～｜リアクション

H･A･G･E～スキンヘッドの逆襲～

「うっわ、マジ？　あたしがハゲ？」

　鏡に映っていたのは、見事なスキンヘッドとなった胡桃の姿だった。胡桃は暫しの間笑う。

「頭すーすーするし、つるっつるじゃん！　面白すぎでしょ、ちょーウケる！」

　笑うのをやめた後、胡桃はスマホを起動し、インカメラにして禿げ頭になった自分を写した。角度を変えつつ、ポーズも決めてボタンを押す。

「いえーい、ピース！」

　その表情から悲観の念はなく、実に楽しげだった。そんな胡桃の様子を見て、後ろからそっと、彼女の肩を叩く者が一人。

「オ……オーホッホッ！　頭の毛と一緒に良識まで欠落してしまったのでしょうか！？」

　胡桃がスキンヘッドを楽しんでいたころ、梨々子は追い詰められていた。それでも、彼女は笑う。彼らが怯んだ隙を狙うべく、反論を述べ立てた。

「紫外線に弱いアルビノの私を禿げ頭にしようだなんて、もはや傷害や殺人の領域になるのではなくて！？」
「知るかそんなの！」

　考えた文句も流されてしまい、梨々子は一瞬動きを止めるが、すぐに持ち直して彼らをびしりと指差した。

「それに無抵抗の人間を禿げ頭にするなんて卑怯ですわ！」

　続けて、カプセルギアを出しながら言う。

「もっと正々堂々と……そう、カプセルギアで勝負するのですわ！」

　すると、スキンヘッド団員は口々に不満の声を漏らした。親指を下に向けてブーイングする者も居る。

「俺たちカプセルギアなんて持ってねーよ！」
「あら失礼？　毛髪のみならず、カプセルギアまで持ってないだなんてお可哀想！」
「んだとォ！？」

　彼らが怒りに我を忘れたと見て、梨々子はひらりと彼らを躱し、走り去っていった。走り、走り、しばしば振り向いては彼らが追ってこないと見て、ようやく梨々子は足を止める。

「ぐっ……生意気なガキめ！」
「おい、どこだ！？」
「見失った！」

　遠くでこんな声がした。梨々子はせりあがってくる息を吐きだしながら、こう言う。

「なんなんですの、ほんと」

　梨々子が駅前に行くと、もうスキンヘッド団は居らず、謎の自撮り集団が代わりに在った。彼女らは皆一様につるつるの頭であったが、ストールを巻いたり、フェイスペイントやメイクを施していたりと、彼女らなりにスキンヘッドを楽しんでいる。その中の一人、胡桃が梨々子に気付いた。

「あら……ずいぶん楽しそうですわ」
「やっほー。一緒に写らない？」

　そういう胡桃もまた、つるつるのスキンヘッドだ。梨々子はその頭に言葉を失いつつ、なんとか言葉を絞り出す。

「その頭どうしましたの？」
「あ、コレ？」

　胡桃はあっけらかんとそれに答えて、彼女に別れてからの事を聞き返した。

「仕事に支障出るし、できれば返してほしーけどね」
「そう……私は……逃げてきましたの」
「そうなんだ？　そうだ、よかったら一緒にやる？」

　梨々子の沈んだ様子に、胡桃はペイント用の道具を差し出した。梨々子は彼女の頭をもう一度見て、

「そうですわね、せめて夕方とかなら私も仲間に……」

　と言うが、慌てて首を振る。

「いえいえい！？　そんなはしたない事できないですわ！　えぇ！！」

　梨々子に胡桃はくすっと笑いながら、カメラを起動させた。そして、梨々子を引き寄せて画面を見る。

「撮るぐらいならいーんじゃない？」
「そ、そうですわね！　そのくらいならやらないこともないですわ！」

　パシャリという音の後。画面にはスキンヘッドの少女と、艶のある銀髪の少女が、眩しい笑顔で写っていた。

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