春宵の候、三寮お泊り交流会｜リアクション

春宵の候、三寮お泊り交流会

●星ヶ丘寮へようこそ・３

　そのころ。タルトと英二、ののこの三人は、ひびきの部屋にお邪魔していた。
　ひびきの部屋は日和の部屋とはがらっと違うテイストで、ファンシーでパステル調の優しい内装だった。
　ひびきはお客さんに、ひとつずつ部屋を紹介してゆく。

「ここがー、グランドピアノのお部屋！　弾けるよ、リクエストしてね♪」
「わーお♪　寮にグランドピアノー！」とタルト。
「桜花寮じゃ考えられない」と英二。
「猫ふんじゃった弾いてもいい？」
　ののこが猫ふんじゃったを弾いて、次のお部屋へ。

「ここがー、ゲームのお部屋！」
「わーお♪　寮に映画館かっていう大画面！」とタルト。
「桜花寮じゃ考えられない」と英二。
「遊びたーい！」
　ののこのリクエストに応えて、ひびきはみんなにＶＲゴーグルとガンコントローラーを渡す。
「簡単なガンアクションゲームだから、みんなで遊ぼっ」
　３０分ほど、迫力ある映像にわいわい騒ぎながら、緊迫の撃ち合いをして遊ぶ。

「あとはー寝室！」
　女子の寝室を見ちゃっていいのだろうかと戸惑う英二をよそに、ひびきは部屋を紹介する。
「ベッドはキングスサイズ。床壁天井に宇宙空間投影の全球プラネタリウム。おそらに浮いて寝れるの。だから気持ちよく寝てよく寝坊しちゃうこともあったり……てへっ」
「わーお♪　寮にプラネタリウムー！」
「桜花寮じゃ考えられない」
　タルトも英二もお約束になった驚き声を上げた。
「寝たーい！」
「さすがにまだ早いよ。ののちゃんもタルトちゃんも、また夜に泊まりに来て♪　英二君は……」
「ぼ、僕はいいよ。男子だし……女子のお部屋に泊まるのまずいから空き部屋に泊まらせてもらうよ」
「そうだね。男子用のお泊りのお部屋も、メイドさんたちお掃除してたから、ぴっかぴかで素敵だと思う。楽しんでね！」
「うん。そうするよ」

　プラネタリウムは夜のお楽しみ、と後ろ手に扉を閉めたひびきは、突如、表情を険しくした。
「しっ。みんな。ここからは一寸あんみつ行動だよっ」
「あんみつ？」
「隠密？」
「そうそれ。おんみつ。スタッフさんに見つからないようにオヤツを頂くの」
「見つからないように？」
　英二が不思議そうな顔をすると、ひびきは至極まじめに言った。
「そう。寮のオヤツだから言えば貰えるんだけど、それってつまんなくない？」
　なんでも苦労せず手に入るというのは、得てしてつまらないものだ。
　贅沢な悩みと言うなら言え。どんなに恵まれていようと、人生にはスパイスが必要なのである。
「よしっ、やろう、あんみつ！」
　ののこはノリノリで拳を握る。
「隠密だよ」
　楽しそうだなあ、と思いながら、一応つっこむ英二。
「悪戯なら任せてよ！」
　タルトも胸をたたき、ひびきといっしょに率先してキッチンに潜入。
　ちなみにメイドさんと一口に言っても、星ヶ丘寮として雇っている人と、各人が実家から連れてきたり個人契約しているメイドさんがいるようで、前者は寮生たちから『スタッフさん』と呼ばれることもある。ひびきのキッチンで忙しそうに動き回っている若い女性は『スタッフさん』だ。
　彼女に見つからないよう、しゃがんで調理台の影に隠れながら……。
（抜き足差し足忍び足……）
（オヤツどこ？）
（そこの棚の上。籠があるはず……）
　タルトとひびきは手を伸ばして、オヤツの籠をひとつずつ掴む。
「あら。今日は何ごっこですか？」
　スタッフさんが気が付いた。ひびきは咄嗟に号令をかける。
「ずらかれーっ」
　こそこそする必要も、ずらかる必要も全然ないのだけれど。
　このスリルがたまらない。
「よおっし大量ゲットにゃー」
　ゲームのお部屋に駆け込むと、扉を閉めてひびきは嬉しそうにおやつを広げた。
　どこでも買えるスナック菓子やチョコレートも、スリルのあとはお宝に変わる。
「さあ食べよー！　Let's パーティタイム！」